魔法学院入学
遂に今日は入学式である。朝早くに起きると、いつもより少し豪華な朝食が置いてあった。ご機嫌に食べていると、アポピスがしっぽを揺らしながら入ってきた。よく見ると、角に布が巻かれていた。
「アポピス、その角どうしたの?」
びっくりして聞いてみると、アポピスに続いて部屋に入ってきた師匠が答えてくれた。
「従魔の証だ、今までは町に入れてなかったから必要なかったが、これからは学院の中に入るからな」
これが従魔の証なんだ〜、とアポピスの角を触ると、嬉しそうにシャーと鳴いた。
「そろそろ出かける準備をしておけ、レイチェルは当分の間ここに帰ってこれないんだからな」
師匠が急かしてきたので、急いで残りの果物を食べて準備を始める。
制服に着替えてマジックバッグを持ち、師匠の次元門を潜ってアルケウィスダム魔法学院のある世界に移動した。学院の制服は黒を基調としており、あまりスカートを履いてこなかったせいで違和感がある。入学式が終わったらズボンでいいとのことなのでそれまでの我慢である。入学式なので、アポピスは師匠の空間に残していて少し寂しい。
次元門を潜ってすぐ、眼鏡をかけた神経質そうな顔をした女性が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました、ゾシモス様」
そう言って女性は深々と頭を下げた。
おう、と軽く返して私を指さして
「こいつが事前に伝えていた、俺の推薦枠のレイチェルだ。」
入学試験とかないんだな~、程度に今まで思っていたが実は推薦だったことを知って驚いた。
「レイチェル、よろしくお願いします。この学院で教師をしているカシウス・ノクスと言います」
カシウス先生はそう言ってほほ笑んだ。
「俺はこいつと話すことがあるから、お前は先に入学式の会場に移動しておけ」
そう言い残して、師匠はカシウス先生と移動し始め、私も会場に向かった。
「うわー!!!」
思わずそうこぼしてしまうほどに、会場への道は美しかった。おそらく、生命魔術で育てられたのだろう巨大な花などで飾り付けられていて、見る者を圧倒するほどの完成度をしていた。
(きれいだな、、、)
生徒数も3000人と事前に聞いていたが、実際に見てみるととてつもないほどの人数に感じられる。人間以外にも獣人や竜人などの亜人に分類される人もかなり多い。珍しいのだと、本来は魔物に分類されるラミアやトロールもいたことが驚きだった。全員制服を着ていて大丈夫だとはわかるが、それでも初めて見た時は驚いていつでも逃げれる準備を取ってしまった。
小声でひそひそと後ろ指を指している人たちもいて、かなり気分は悪かった。
(言葉が通じて襲ってこなければみんな変わらないのに)
そう思いながら会場に着くと、制服の胸元に星が5つ付いている生徒がこちらに話しかけてきた。
「新入生かな?僕は5年生のエリックというんだ。もうすぐ学院長のスピーチが始まるから、急いで席についてね」
そう促されて、相手板前の方の席に座った。
待つことしばらく、長い白髪を後ろで一つに結んでいる女性が入ってきた。
「私の名は、ルシウス・ヴァルトだ。この学院の長をしている。
今日、3000人の新しい魔術師を目指す者たちが入学したことはうれしく思う。事前に伝えておこう。もちろん皆が知っていることだとは思うが、6年間で1000がいなくなる。君たちの両脇のどちらか、もしくは君たち自身がいなくなるということだ。
ここでは、既存の魔術を習うだけの能無しを育成するつもりはない。各々が、固有の魔術を作成することが目標なっている。既存の魔術を学び、そして私を含む多くの古くから存在する者たちを超えれるだけのものになれ。
そのための環境は、おそらくどの世界を探したとしてもここよりも優れている場所はないだろう。学院のすぐ隣には、巨大な迷宮がある。手に入れるのが難しいとされるものですら、ここでは容易に手に入る。もちろん危険はある。ゴブリンなどのFランクの魔物から、Sランクのエルダーデーモンやアビスドラゴン、ほかにもSランクの魔物や学院の特殊な空間によって変異した特殊個体など様々いる。Sランク以上の魔物すら、ここには存在する。
これらの魔物を恐れて学院に引きこもるもよし、さらなる高みに行くために潜っていくのもよし。だが、前者の選択をしていくような軟弱者は、ここでは生き残ることはできない。
君たちの覚悟を問おう、ここで死んだとしても後世の成果のために死ぬことをいとわないものだけ残れ。別にここで帰ることを選んでも構わん、危険を回避するのは本能だ。
...よろしい。それでは改めて、アルケウィスダム魔法学院への入学を祝福する」