聖王国で
「ライトニングウェーブ!!」
私の詠唱とともに、電撃が広範囲に広がり空中のワイバーンを打つ。
「ギャアアア!!」
悲鳴を上げながらワイバーンは撃墜される。しかしBランクの魔物としての有り余る生命力によって傷の再生が始まっている。さらにこちらにブレスを吐く。翼をはためかせ飛ぼうとしたときに
「フレイムランス」
続く私の魔術によって翼を貫かれ、撃墜されることになる。さらに地面に落ちてきたワイバーンに巨大な蛇が巻き付く。動きが止められブレスの準備を始めるワイバーンに
「プロミネンス!!」
とどめとなる炎魔術を頭部に放ち絶命させる。
角から魔力が吸収されているのを感じ、とどめが刺されていることを確信した。ふう、と一息つき服についていた汚れを払い落とす。
「お疲れ様、助かったよ」
そう言い、蛇の頭をなでる。そのとき、
「まだまだアポピス抜きだとトカゲ相手はきついか。さっさとマジックバッグに死体を入れておけ、移動するぞ」
無愛想に師匠が言った。口をとがらせて抗議すると
「今はいいが、学院に入ったら二年までに単独で討伐できるようになれ」
相変わらず厳しいことを言われた。
(まだ10歳なのに厳しすぎない??)
と心の中で不満を漏らす。しかし師匠の言っていることも正しいので師匠が作ってくれたマジックバッグにワイバーンを収納した。
「それとそろそろ学院の入学時期だ、いったん帰るぞ」
師匠はそう言うと魔術を起動し、近くにある都市に転移した。
師匠のもとに来て約半年、今は修行の一環として聖王国に来ている。ここは帝国と双璧をなす強国で、正式名称はリオノ聖王国という。エラフィオンという神を信仰していて、祈ると魔力を少し使うらしいが、健康になったり病気になりづらくなるらしい。以前、祈ってみようとしたら
「あんな奴に祈るぐらいなら俺に感謝した方がいい」
と師匠に笑いながらやめさせられたので効果が本当かは知らない。
白を基調とした家が多くて、師匠のとこの遺跡も見習った方がいいと思えるセンスの良さだった。
冒険者ギルドというものが聖王国には整備されていて、ここでは倒した魔物の死体や貴重な薬草とかをいろいろ買い取ってくれたりする、かなりありがたい組織だ。さっき倒したワイバーンを換金して受付嬢から金を受け取る。
師匠が言うにはまず冒険者を送り込んで懐柔し、宣教師を送り込んで教団のありがたみを実感させて経済圏に組み入れていくのだそう。それでもお互いに助け合っているし、笑顔が多いから私はこの国が好きだ。そう思いながら宿に帰ってくると、部屋で師匠が誰かと話してる。
「帰りました!」
そう言ってドアを開けると、師匠の横にはきれいな金髪碧眼のシスターが師匠と喋っていた。
「おお、よく帰ったな。こいつも帰ってきたことだし、飯でも食いながらゆっくり話そうや」
そう言って師匠はシスターとの話し合いを切り上げた。
「この人は?」
と師匠に聞くと
「ああ、説明が遅れました。私リリア・イヴといいます。以前はあなたと同じく先生のもとで学んでいてあなたの姉弟子に当たります」
そう言ってリリアは師匠の代わりに微笑みながら教えてくれた。
「あ、すみません先に名乗らせちゃって。今師匠の下で修業をしている鬼人族のシャル・レイチェルです、よろしくお願いします」
そう慌てて自己紹介した。
「全然いいのよ?たしかセラのお孫なのよね?昔の彼女の面影があるわ」
昔のセラ婆と面識がるのに驚いた。
(セラ婆って何百歳とかなのに、、、)
見た目とのギャップ驚いていると
「おい、自己紹介終わったならとっとと飯行くぞ。気になることがあるなら後にしろ」
少し不機嫌そうな師匠がそう言ってそそくさとレストランの方に向かってしまった。
「相変わらずね」とリリアは言って師匠についていき、私もそれに続いてレストランに向かった。
「あらためて、ここ聖王国で司祭長をしているリリア・イヴです」
改めてリリアは自己紹介してくれた。
その自己紹介にびっくりして思わずむせてしまった。師匠がすごく不快そうな目で私を見てくるが、とりあえず無視する。
「え、祭司長なんですか!?」
「そうよ、あなたを紹介したいって先生に呼び出されたの」
笑いながら答えてくれた。食べ終わった師匠が口を開く。
「来年から学院に通うことになるからな。その前に帝国と対立している国を紹介しておこうと思ってな。ついでに昔の弟子の近況でも聞こうと思って呼び出したんだ」
師匠は悪びれもなく言っているが、聖王国のお偉いを急に呼び出しているのだ。
(まじかこの人、、、)
と内心でドン引きしまくりである。心なしかリリアの師匠を見る目が冷たい。
「私も一応立場があって忙しいんですよ?」
リリアは少し怒っているのっぽいが師匠はどこ吹く風だ。リリアは、はー、ため息をつき
「本題に入りますけど、先生に言われて今年うちの国から学院に入るものをなるべく例年よりも有望な子を増やしました。あと、言われた通り異世界召喚もしておきました。かなり魔力も使いましたし、反発もかなり多かったんですからね?」
異世界召喚という初めて聞く言葉に何かわかっていなかったら
「レイチェルはここが短いですから知らないのも無理ありません。魔力のない世界から人を呼んで、そのときに世界を渡る影響と強引な魔力の付与で、かなり強力になるのです。人数の指定とかは難しいのですが、ざっくりと多め少なめとかなら調整できるんです」
ニコニコしながらリリアが教えてくれる。
「こいつんとこの神が昔編み出した術だ。当時は今と違って魔物と魔王によって支配されている世界が多かったからな、その対抗策として作られたんだ。もっとも、育つのに時間がかかるし、高頻度でできない制約もあるからな、万能とはいかん」
師匠がそう補足してくれた。
「で、今回は何人なんだ?」
そう師匠が聞くと「40人です」と教えてくれた。結構いるんだな~ぐらいに思っていると、師匠の顔がは?というあほ面になっている。思わず笑いそうになるが堪える。
(今笑ったら絶対に折檻される!!)
私が絶えている横でリリアが説明してくれる。
「普段は多くても10人ぐらいなんですよ、少ない時は1~3人なんです。でも師匠がわざわざ聖王国に来て多めに召喚しろって言うので、エラフィオン様が慌てて召喚されたんです」
それを受けて師匠はしかめっ面で
「調整が下手なのは変わらずだな、なぜこうもぼんくらなのか、、」
と小声でぼやいているのが聞こえて再び笑いそうになる。
「まあ、とりあえず今はいいか。で、そいつらの年齢は?使い物なりそうか?」
「皆14歳です。それなりだと思いますよ、比較対象によりますけど。言動は少し気になりますが、それでも良い子が多いですね」
それを聞いた師匠は、もうどうでもいいとばかりにデザートを注文し始めた。
「私からも聞きたいのですが、レイチェルは旅でどんなことをしたんですか?」
急に話を振られてびっくりしたが、半年間で何があったかをリリアに語る。