ジャイアントメタルスコーピオン④
砂が吠えていた。
地面が裂け、空が濁り、視界は茶色に染まる。
私たちが魔術を放とうとした瞬間、制御を奪い返すのではなく魔力で砂を生成し再び砂嵐の鎧を纏った。
私やほかの魔術師は魔法を構築しようとしても、その魔力は地面に吸われるように拡散して術を形成することができなくなった。
その間にも足止めしていたラースグリズリーは、ジャイアントメタルスコーピオンの砂塵で削られ始めてしまっている。
(……魔術じゃ届かないか)
そう考え、レイチェルは魔術を構築するのをやめて魔力を体内で循環し始めた。
筋繊維が軋み、骨が鳴る。目は充血し始め、空気が変わる。
シッ、と小さく息を吐き出して地面を蹴る。
魔力によって軋みながらも加速していく。
肌を魔力で硬化して砂嵐を突っ切る。
左の鋏を強引に動かし、叩き潰そうとする。
しかしレイチェルは跳躍し、ジャイアントメタルスコーピオンの背に着地した。
拳が金属質の甲殻に吸い込まれた。
衝撃波が内部を駆け抜け、遅れて「パキィッ」と鼓膜を刺すような亀裂の音が鳴る。
だが、手応えは最悪だ。鋼鉄の塊を殴ったような衝撃が、肩の関節を逆流してレイチェルの脳を揺らした。
甲殻が悲鳴を上げるように軋んだ。
だが、割れない。ひびは広がるが、深くは食い込まない。
ジャイアントメタルスコーピオンが背を大きく揺らし、レイチェルを振り落とそうと暴れ始めた。
「っ……まだ……!」
レイチェルは甲殻に指を食い込ませ、振り落とされまいと踏ん張る。
(ここで倒れたら、みんなが死ぬ……!)
だが、砂嵐が再び巻き上がり、視界が奪われる。
砂が皮膚を削り、硬化した肌でも痛みが走る。
その瞬間、甲殻の下から魔力の脈動が伝わってきた。
ジャイアントメタルスコーピオンが、再び砂を生成しようとしている。
(……まずい)
砂嵐が強まれば、ラースグリズリーが持たない。
仲間の魔法も封じられている。時間がない。
レイチェルは拳を握り直し、魔力を一点に集中させた。
骨が悲鳴を上げる。筋肉が裂けるような痛みが走る。
それでも魔力を押し込み、拳に宿す。
「割れろッ!」
叫びとともに、全身の魔力を拳へ叩き込む。甲殻が大きくへこみ、ひびが一気に深く走った。
内部から金属音が響き、ジャイアントメタルスコーピオンが苦悶の声を上げる。
だが――。
「……っ!」
甲殻の隙間から、濃密な砂が噴き出した。
まるで生き物のようにレイチェルの腕に絡みつき、引き剥がそうとする。
砂は魔力を吸い取りながら形を変え、レイチェルの腕を拘束する鎖のように締め付けてきた。
(魔力を……吸われてる!?)
身体強化が急速に弱まり、視界が揺れる。
ジャイアントメタルスコーピオンが背を跳ね上げ、レイチェルの身体が宙に放り出された。
「くっ……!」
砂嵐の中へ叩き落とされる。
地面に激突する寸前、レイチェルは魔力で衝撃を殺すが、それでも肺から空気が抜けた。肋骨が軋む。
砂が迫る。
巨大な影が覆いかぶさる。
ジャイアントメタルスコーピオンが、レイチェルを仕留めに来る。
(……まだ、終われない)
レイチェルは歯を食いしばり、再び立ち上がろうとした――。




