初めての授業
学院に入ってから、初めての授業を受ける。
1、2年の間はクラスごとに基礎の授業を受け、3年以降は自分の専門分野に専念する。
人によっては、迷宮の中に自分のアトリエを作る人もいるらしい。
記念すべき初授業は、魔物・生命学の授業だった。
教室に近づくごとに、血の匂いが強まり、気持ちが悪かった。山本達と一緒に向かっていたが、他の三人は気づいていないらしい。
それでも教室に入ると、3人とも表情を曇られせた。すでに教室には大半の生徒が集まっていたが、皆が鼻をおおっていた。
そうして匂いに耐えていると、背中からまがまがしい翼を生やした白衣を纏った女性が入ってきた。
「私がこの授業を担当するカルミナ・グリモールだ。主に魔物の研究を行っている。
授業では、魔物の解剖やキメラの作成などを行う。外の迷宮で生息する魔物の生態観察や、別の世界に出向いて高ランクの魔物を見に行こうと思ってる。
私の授業は、毎年キメラの作成中に、作成したキメラをきちんとコントロールできずに襲われて死ぬ者もいる。最初はゴブリンなどだが、下級生のうちにBランクを扱うからそのつもりでいろ。
1年の間は命にかかわるものは助けるが、四肢欠損程度なら助けないし2年以降は死ぬ可能性があっても助けるつもりはない」
カルミナ先生のその言葉に、教室はざわつきだす。
「戦いで死ぬならまだしも、魔物の生態を知るために死ぬのなんかごめんだ!!」「俺たちは勇者なんだぞ!!」
生徒の不満が爆発し、黒髪の生徒の集団が声を上げた。その生徒に続いて、数人が非難の声が先生に浴びせられる。不満を表しているのは全員が黒髪で、同じ黒髪の山本に視線を送ると頭を抱えていた。
「あの人たちって山本の知り合い?」
そう聞くと山本は少しいやそうな顔をしながら教えてくれた。
「一緒に勇者召喚された、元の世界のクラスメートなの。
もともと空気が読めなかったんだけどまさかここまでとは思わなかったわ。
自分たちが選ばれた存在だと本当に信じてるのよ。召喚されたときに与えられた力はあるけど、練習もせずにふんぞり返っているのよ」
あきれた表情で山本は嘆いた。
(一番上のクラスなのに強くなさそうだな~)
そう思いながら、バカ騒ぎしている人たちを観察する。みんな線が細いし、ぱっと見だが魔術をすぐに打てるとは思えない。
(この程度のレベルが一番上だとはこの学院も大したことがないな)
そう思いながら、学院に失望していると先生が動いた。
「好き放題言わせておけばうるさいぞ、ゴミども。
魔術師として生きていくということは死と隣り合わせだ、この程度で喚くな。
この学院では、四肢欠損レベルで許す私は優しい方だ」
魔力を解放し、デーモンのような翼を広げて私たちを睥睨する。
先生の放つ魔力はあまりに膨大で、血の気が引いてしまう。首回りも変化し、筋肉が盛り上がり表面にドラゴンのような鱗がついている。
その異様に気付いたほかの生徒が悲鳴を上げる。冷や汗をかきながら改めて先生を観察する。
(これほどの魔力に威圧感、下手したら師匠に匹敵するんじゃ・・・)
不満を爆発させていた生徒たちも、先生の放つ膨大な魔力に充てられてすっかり委縮してしまっている。
山本が隣で「ほんとにバカなんだから・・・」と嘆いている。
「授業を始める前に伝えておくぞ、今回特進を担当する教師はすべてSSSランクを一人で討伐することができる。
だが、全員性格に問題がある。わたしは基本的に一年の間は見逃すが、ほかの奴らに下手な口をきいた瞬間殺されると思っておけ。死体すら残されないと思っておけ」
そう言って先生は、異形化を解いて魔力も抑えた。
皆がふー、と息をつく。不満を漏らしていた生徒たちも肩で息をしている。顔色を変えずに先生は告げる。
「それでは授業を始める」
先生の授業は、基礎的な話も含めてわかりやすい内容だった。
魔物のランクはF~SSSランクまであり、Fランクはスライムなどの戦闘能力がないとされる魔物。
Eランクはゴブリンなどの子供程度の戦闘力の魔物。
Dランクはコボルトなどの成人と同程度の魔物。
Cランクはジャイアントスネークオークといった戦闘を生業にしていないと討伐が困難な魔物。
Bランクはアポピスのグランドスネークやワイバンなどの小さな村を滅ぼせる魔物。
Aランクはゴブリンエンペラーやアークデーモンなどの国を亡ぼせるレベルの魔物が分類される。
S~SSSランクの魔物たちは、それぞれが強力な力を有していて、入学式で名前が挙がっていたエルダーデーモンは物質の消滅や魔力が続く限り自身の力を分け与えた異形を召喚し続けることができる。
SSランクの魔物たちですら、一つの世界を支配することができるほどの強さがあり、SSSランクにもなってくると対応できるのは帝国や聖王国などの一部の国のみになってしまう。
SSSランクを超えた存在は、それぞれの名前が種族名となっている魔物たちである。
SSSランクを超えた存在は、魔物も含めて超越者と呼ばれていて、今回特進を担当する先生たちは、カルミナ先生も含めて全員が超越者で構成されている。
ここ数十年は超越者は誕生せず強力な魔物も生まれていないが、Sランクの魔物はいくつか誕生していて、それぞれの世界から学院や帝国などの力ある世界に救援要請が送られているのだとか。
先生は最後に私たちに忠告をしてくれた。
「今年は、ゾシモスが帰ってきている。
今年の戦闘訓練はあいつに一任されている、おそらく最初の授業から実戦に入れられるだろう。
ゾシモスは確かに超越者の中でも頭一つ抜けて強いが、基本的に適当な奴だ、気を付けておけ」
先生はそう締めくくって、私の初めての授業は終わった。




