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五兄弟  作者: 来栖雅之
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以前に書いてそのままにしてしまっているものです。

このサイトに投稿すれば続きを書く気力が湧くかもしれないと思って投稿します。

もしかしたら続き、書かないかもしれませんが、読んでくれれば嬉しいです。

縦書きで読んだほうがわかりやすいかもしれません。

 夜のとばりが辺り一帯を覆いつくしている頃、五つの人影がひっそりと蠢いてとばりを揺らしています。

 太郎、次郎、三郎、四郎、五郎の五人が中学校に忍び込むという話になったのですけれど、どうしてそのようなことになったのでしょうか。

 しかも入り込む時間というのは人っ子一人いない夜中です。

 実はそう……肝試しなのですね。この兄弟たちは肝試しをして誰が一番勇敢な野郎なのか、ということを決めるのです。

 長男の太郎が、なかなかに広い学校のグラウンドの中心で、弟たちに少し控えめの声量で、

 「俺は昨日、図書室の奥に『目的のブツ』を置いた。で、これを見ろ……」

 彼は腰につけているチェック柄のポーチより、A4程度の大きさの紙切れ一枚と、懐中電灯一本を取り出しました。そして懐中電灯のスイッチを手探りで見つけ出してそれを点灯。その灯りでA4の用紙を照らすと、兄弟たちがワッと長男の元に群がってきます。

 「まて、まて。…焦るな。……ほら、座れ。次郎も三郎も…ほら、五郎、座れ。見ろ、お前ら」

 「わかったよ兄貴」「四郎も座れよ」「尻が汚れる」「お前は女か」「うるさいな。わかったよ、座るよ」

 兄弟たち全員がA4用紙を囲い込むようにして、グラウンドの砂に尻餅をつきました。懐中電灯を覗き込む、彼らのそれぞれの漆黒の両の目が、懐中電灯の灯りを瞳の中で燃やして、キラキラと輝きます。

 しばし皆が用紙に見入ったのち、三郎が口を開きます。

 「で、兄貴。この紙に書かれている所で待機すればいいわけなのはわかったが、卑怯なマネはしていないだろうね?」

 三郎は疑い深い性格です。そんな三郎をたしなめるかのように次郎が口を開きます。

 「三郎。お前は太郎が卑怯なマネをしたことを見たことがあるのか?……我ら長兄は、俺たちの模範だ。お前や五郎が卑怯なマネをする可能性は充分にありえるが、太郎に限ってはそんなこと、口に出すまでもないことだ」

 次郎は長兄をカバーする次男です。なかなかに威厳ある口調で喋りますから三郎は次郎に怒られるとすぐにシュンと俯いてしまいます。

 「次郎!今さりげなく俺を卑怯者あつかいしたな!俺は聞き逃さなかったぞ、耳が良いんだからな、俺は」

 突然怒鳴り上げてきたのは五郎です。彼は少し頭に血が昇りやすいのですぐに兄達に突っかかります。それを他の兄達は煙ったがっているのですが、五郎はそんなことには構いません。もしかしたら、煙ったがれていることにすら、気が付いてないのかもしれません。

 四郎はさっきから何か考え事をするかのように、深刻な顔つきで押し黙っています。顔つきも真っ青です。もともと四郎は寡黙で色白な弟ですが現在はいつもの二倍ほどは、青ざめているし、寡黙です。

 「五郎!卑怯者扱いはしていない。言葉の綾というやつだ」

 「言葉の綾だと…?次郎はそうやってまた小難しい言葉を使って、ごまかして俺を馬鹿にする。気に食わねえ!」

 「黙ってろ!お前がそうやって怒鳴り出すせいで、いつになっても肝試しが始まらない!いいか、俺たちは母校に忍び込んでるんだぞ、警備員が来たら一家で恥をかくことになるんだぞ」

 「そんな簡単なこと俺にだってわからぁ!馬鹿にしてもらっちゃ困るぜ」

 「わかってないから困ってるんだ!……ちくしょう、お前と話しているといつも調子が狂う」

 「なんだと兄貴!もう一度言ってみろ!俺が狂っているといったな?」

 「お前はどこまで早とちりで馬鹿で被害妄想的なんだ!将来、お前が成長して社会に野放しになることを考えると、いまから俺は頭が痛いよ。お前が我ら一家に恥を塗るのではないかと心配だ、心配!そしてその責任を負うのはお前の両親とその長男だってことを、お前は忘れるな!いや単細胞なお前のことだから忘れるに違いないな……五郎、誰がこの肝試しを提案したか覚えているのか?」

 五郎は顔を真っ赤にしながらも、すぐに反論しようと試みたのだろう、口を開いたのだが……何ゆえか言葉が出てこない。唇をパクパクさせるだけで何かが喉に詰まってしまったかのような顔をする。

 しばしグラウンドが沈黙に包まれた後、五郎は静かに、

 「それは、そう……やはり、太郎が考えたんじゃ、なかった、っけか。そう、そうだ。太郎兄さんがたまには兄弟だけで楽しむのも悪くは無いだろうということで、肝試しを提案したのだろう!たしか一ヶ月前ほどに!」

 五郎は威勢良く叫んだ、が、グラウンドにその叫びがエコーした後、またもやグラウンドは沈黙に包まれた。

 ため息。

 ため息。

 ため息。

 兄弟たちほとんど全員による、ため息。ため息をつかなかったのは、さすが、長男の太郎である。

 次郎は静かに口を開きました。

 「五郎」

 「……」

 「一ヶ月前という部分は間違っていない。それだけでもたいしたものだ、お前にしてはな」

 「……」

 「しかし他の部分は全て間違っている。提案したのは、五郎、お前だ」

 「……」

 五郎の顔はもう真っ青になっていました。肝試しをする前に肝が冷え切ってしまいました。次郎はそれを見て多少嬉しそうです。頬が抑えきれずニヤけます。場の空気が淀んできました。

 それをかき消すようにパン、と破裂音のような音を鳴り響かせたのは、長男の太郎です。

 両手を勢いよく合わせたのです。

 兄弟を一瞥してから、太郎は声を出します。

 「全員立ち位置はわかったな?図書室までの距離は、全員ほぼ同じだ。窓の鍵はしっかりと緩んでいる。ムリヤリがちゃがちゃやるか、それで開かなかったら持って来た工具か何かを巧みに使え。そうすりゃ、なにせボロが来ている校舎の窓だ。呆気なく開くはずだ。スタートはそれぞれの携帯電話が『23:00』を映し出すのと同時だ。……『目的のブツ』を見事、図書室の一番最奥のテーブルより奪い取ったやつが、一番肝っ玉の据わっている兄弟だ。……何か聞いていおきたいことがあるやつは、いるか?」

 太郎が兄弟たちの少し青ざめた顔を懐中電灯の灯り越しに見回します。誰も口を開きません。

 太郎は小さなため息をついたのち、そして静かに宣言の合図をします。

 「……それでは、各自移動開始だ」


 三郎は所定の位置に移動するべく、グラウンドをとぼとぼと歩きます。兄弟たちの姿は夜のとばりに覆い尽くされてもはや影も形も見えなくなっています。彼が一つ歩くたびに、地面の砂がきしむ音が、彼の耳の中で響きます。夜中の風が木々や草草をゆらし、その音のいちいちに三郎は敏感にならざるを得ません。

 ――――カラン。

 甲高い音が突然鳴って、三郎の全身が反射的に硬直します。しかしそれが風に吹かれた空き缶だということには気が付いたので、すぐに緊張を解きます。三郎は音や気配に元々敏感だから、本日はいつもの二倍ほどは、敏感なのでした。

 三郎のスタート地点は理科室周辺の廊下、の、窓からでした。そこの緩くなっている戸締りを開けて、空っぽの中学校に侵入するのです。理科室は校舎の背後の方です。周辺では植えられている木々が鬱蒼と繁っており、三郎の視界を遮ります。木々一つ一つが周辺よりも濃い影となっているから、先程よりも周囲が暗い………がさ、がさ……何か小さな物音が聞こえるたびに三郎は体をビクっと痙攣させてしまう。

 慌てて立ち止まり、周囲をゆっくりと見回す。……木々が黒々と、夜の中を佇んでいる……巨大な校舎が目の前で巨大に立ち構えている……。

 「五郎のやつめ。くだらない提案のせいで、こんな風な思いにさせられるなど…。まあいい、どうせならば兄弟の中で一番の肝っ玉になってやろうじゃないか。近頃、次郎が調子に乗っているからな。やつに『目的のブツ』を取られたら癪だ。俺が一番になってやる」

 クク、と自分がわずかな栄誉を勝ち取ることに期待を寄せます。

 そう三郎が思っていた、瞬間です。

 何かの『モノ』が三郎の視界の隅で蠢きました。

 ……いま、なにかが……?

 何かがいなかったか?

 白い、何かが、動いた。

 いま、夜のとばりの中で白い何かが、三郎の視界の隅を通過したように彼には感じられました。

 「気のせいだな」

 三郎は自分の体が緊張に縛られているのを感じて、すぐさまそれを取り払うために腰のピンクのポーチより工具を取り出しました。

 そして屋内の『非常口』の点灯にぼんやりと照らされている廊下…それを映しているボロの来ている窓、に工具をあてがってムリヤリがちゃがちゃやってみました。…しばらくの時間の後、ボロボロの窓の鍵が下方向に降りました。

 「よし」

 三郎はニヤつきながら、ゆっくりと窓を横にスライドさせます。開いた窓の奥に、『理科室』と書かれた教室の扉、『非常口』に薄気味悪く照らされている廊下が広がっています。三郎は体を持ち上げて、身軽にひょいと、校舎への侵入に成功しました。

 そして、三郎の両の足が着地し、屋内にその音が鳴り響いたと、同時のことです。

 「……何だ、何だ。今のは……」

 奇妙な声。

 そう、それは確かに声だった。いま、聞こえた。なんだ、なんださっきから…幻聴だろうか…?

 三郎の耳に、着地と同時に、たしかに『声』が聞こえました。…何か地から湧き出るような恐ろしい声…それこそ三郎が恐れている『幽霊』のようなモノが持つ声のような…。

 「……」

 三郎は辺り一帯をキョロキョロと見回します。獲物にされるのを恐れる、草食動物。そんな仕草で腰をかがめて、彼は一歩一歩を進みはじめますが、動悸が激しい。一歩進むごとに彼の体が脈打ち、全身が苦しみに支配されてくる。思わず、三郎は立ち止まって、一息つこうと壁に寄りかかる。

 壁は、ひんやりとしている。

 「…五郎め、五郎…俺は次郎よりもお前の方を憎むぞ……。ちくしょう、怖いのはどうにも、克服できねぇ…はぁ……いくか……いくぞ……」

 まるで誰かに確認をするかのようにしながら、天井にとりついている『非常口』の薄気味悪い緑を眺めながら。三郎はゆっくりと、壁にもたれかかっている体を、『やってられんぜ』と言った仕草をしながら起こします。が。その瞬間、その瞬間でした、その瞬間なのです。

 ―――グァアアアアアアアアアアアアァアアアアアァァァア

 三郎は思わず、またもや反射的に、体を草食動物のように屈めて辺り一帯を見回しました。『非常口』の緑にぼんやり照らされている夜の学校の廊下が、三郎の目の前に広がっているばかりです。廊下の奥の方はほとんど見えません。暗闇のベールで遮られています。

 …どこから、どこから聞こえてきたというのでしょうか。月明かりの校舎の廊下に恐ろしい程に反射して、エコーして、その声は三郎の耳をつんざきました。すさまじい声です。先程の地から湧き出るようなものとは違いますが、たしかにそれは校舎のどこかより聞こえてきました。

 「なんだ、なんだよ、なにが起こってる」

 三郎は思わず顔を手で覆ってしまいました。周りの景色を見るのが恐ろしくなったのです。気味悪く映りこんで来る校舎の闇を眺めてばかりいると、何かに押しつぶされて気が狂ってしまいそうでした。

 しかし、目を手で覆いながらも、彼は一歩一歩、進むことにしました。目を手で覆いながらも、いくらかの道は壁を頼りにすれば進むことが出来ます。左側の壁にもたれかかりながら突き進めばT字路に突き当たることを三郎は知っています。

 「……ちくしょう……怖え……怖え……」

 声を出すことで恐怖をやわらげようとします。しかし一歩進むごとに、どこかに引き寄せられるようにして三郎の心は、心臓は、鳴り響いて鳴り響いて、三郎の余裕を奪い取って行きます。三郎はどんどん壁にもたれかかっていきます、もたれかかりながら……そして、彼はT字路まで自分が突き進んだことを知りました。壁が直角に左に曲がったのを肩越しに感じたのです。

 視界は真っ暗です。三郎は目を開けなくてはなりません。T字路を曲がると広場のように広い廊下になっておりますし、そこにちょうど階段が設置されているのです。目を手で覆っていては、階段の箇所にまではたどり着けましょうが、階段には登れません。三郎はなるべく自分の予想するギリギリにまで目を手で覆い、適当なところでその手を外す、ということを決意しました。そしてもたれかかっていた壁より体を放し、ひんやりとした空気の中をゆっくりと、一人で、歩き始めました。

 ……カツン……カツン……カツン……

 三郎の慎重な足音が、何も頼りの無い、夜の暗闇の中を、響き渡ります。

 ……カツン……カツン……カツン……

助けは、ありません。

 ……カツン……カツン……カツン……

 幾らかその慎重な音が、鳴り響いた後。

 ―――そろそろか。

 三郎は意を決して、両目から手を離すことを決意しました。しかし、三郎はあまりに恐怖を感じています。そのあまりの緊張ゆえに―――せめて後一歩だけでも手を離すのを控えよう、後一歩くらい進めば、ちょうど目の前に階段があるだろう―――。そうあまり意味の無いことを思いつき、彼は先程までよりも、派手な、大きめの一歩を踏み出し……そしてその瞬間に『何か』を踏みました。

 ……何か?いえ、三郎は、踏んでしまったそれが、何か大きめな物体であることにすぐ気が付きました、さらに、これは重要なことなのですが……その三郎の踏んだ何かは、『柔らかかったのです』。ぷにというよりは、ぶにというような、そんな柔らかさを持った物体を、彼は踏み潰したのです。

 三郎はその感触の気持ち悪さに身を引きました。そしてその勢いで目を覆っていた手を放しまして、そして踏んでしまったものを目撃しました。

 「ひき肉じゃないのか、これは」

 それが素直な感想でした。驚きのあまり三郎には珍しい、素直さが表出したのかもしれません。

 ハンバーグを作る時に使われるような、あのひき肉らしきもの。それが階段を前にして、うっすら月明かりに照らされて、佇んでおります。

 長い間目を覆っていた三郎が、踏んだそれを一瞬にして『ひき肉』と理解できた。それには理由があります。

 ひき肉の置いてある部分だけ、まるでスポットライトに当てられているように、月明かりが激しくあてられているのです。

 ですから、ひき肉と、ひき肉の周辺の部分だけ、影が薄い。

 そして、影の区切れは、ぎざぎざしている。粗い縁。

 三郎は嫌な匂いに気が付きました。鼻にツンと襲い掛かってくる、生まれてはじめての…におい。

 「………」

 ……非常に、おそるおそる。三郎は、鼻を服の裾で抑えながら、登るべき階段を見上げます。

 月明かりが差し込んでくる窓があるはずの部分を、何か嫌な予感を携えながら、見上げてみます。

 ―――そこにあったのは、お腹に満月を抱え込んだ、テルテル坊主でした。

 階段の蛍光灯周辺からロープが降りていて、テルテル坊主が…粗くお腹が開かせて、満月を、胃袋の中に納めています。

 ぶらん…ぶらんと静かに、夜暗の中ゆれ動き、三郎を手招きしているよう。

 三郎はひき肉を恐る恐る飛び越えて、体中から嫌な汗を流しながら、階段を一段ずつ。

 …カツ…カツ…カツ…

 登る度に、一段階段を踏みしめて汗を流す度に。

 …カツ…カツ…カツ…

 三郎のどこかから溢れ出てくる恐怖が、現実的なモノとなって。

 …カツ…カツ…カツ…

 途中から頭を横に振り始めますが、それはむしろ、恐れている事態を現実のモノに変える決定的な行為にすぎません。

 階段のほぼ頂上にあたる部分に差し掛かり、そこで止まり、……満月を食ったテルテル坊主を……つまり、『お腹の部分をひき肉にされてしまった彼の亡骸』を、兄貴である三郎は、涙と恐怖で眺めます。それは間違いなく、先程グラウンドで次郎と喧嘩をしていたばかりの、あの表情豊かな末弟。その姿以外の、何者でもありませんでした。

 「……五郎」

 それはもはや三郎の知っている五郎ではありません。その顔は恐怖でひん曲がっております。

 お腹の部分が虫に食われてしまったかのように欠如しています。先程のひき肉は五郎のお腹の部分でした。

 満月を食べた彼はちっとも嬉しそうな顔をしていません。幽鬼のように青ざめた顔つきで、恐怖に固まった彼が三郎に絶望を与えます。

 もはや息をすることの無い、魂の抜けたカラッポの器が、テルテル坊主となって夜に包まれ、そして満月を平らげて不満そうに、不満そうに、三郎を眺めては眺めるだけで話しかけても来ず、夜の不気味な気配だけが漂う校舎で、三郎をひとりぼっちに……ヒトリボッチナ……気分にさせる。

 「…五郎……五郎…五郎…!」

 全身を震わせながらビクついて脅える三郎、そんな彼に追い討ちをかけるように彼の耳の中でまた、何か、あの奇妙な地の底から湧き上がって来るかのような声が聞こえました。三郎は階段の踊り場で慌てて首を捻りました。上階と下階を交互に、何度も、忙しく気の狂った人のように見たり見なかったりしまして、その途中で五郎の死体に身体をぶつけてしまいますと、ねちゃり、恐ろしく気味の悪い音と共に三郎に付着するのは、五郎の亡骸の欠片!三郎は遂に感情の大海で津波を生じさせてしまい、まさしく気が狂った人間の焦点で階段を駆け上がりました。そして駆け上がった瞬間に、窓からこの校舎を抜け出ることを思いついて、あわててテルテル坊主のところにまた駆け下りていきました。そして窓をガチャガチャ、というか鍵を急いで下ろそうとするのですが、しかし誰かが彼を嘲笑うかのように……五郎をテルテル坊主に変えた誰かのイタズラであるかのように……鍵はびくともせず、古びているはずの窓はなぜかちっとも開かない。「……嫌だ……嫌だ……嫌だ!」三郎は懸命な様子で、目を血走らせたままに喚きながら、窓をガタガタと動かしますが、ダメです、ちっとも動きません。そこで三郎は自分が入り込んできた窓にまで引き返すことを決意し、急いで階下に目をやりましたが、そこで彼は恐ろしいものを目撃してしまいました。

 「……嫌だ……何だ……なんだ……嫌だ、もう、嫌、なんだ……」

 三郎は恐ろしさのあまりいてもたってもいられず、二階へと何の考えもなしに足を進めまして、そして二階の広場へと一気に到着しました。

 そこで彼は血走りながら左右に首を捻り、捻り、夜の月明かりの中に何が潜んでおるのか、その正体を見つけ出そうとしていました。「どこだ!出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い」彼の喉は痙攣してしまったかのように止まりませんでした、焦りのせいで何やら訳がわからなくなってきています、彼は。もうどうしようもなくなってしまいましたから、彼は喉を潤そうと思って、広場の隣にある水道へと急いで足を運び、そこで蛇口をグイっと右に捻ると、なにやら気味の悪い、白いにゅるっとしたものが蛇口からのびでてきたので、三郎はもう、一瞬にして腰を抜かして全身を痙攣させたまま蛇口より白いのが伸びでてくるのを眺めるばかりになってしまいました。「出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い」何時の間にか、彼は自らの口を止めることが出来なくなっていることに、自分で気が付きまして、急いで喉に手をやりました。しかし喉は喋ることをやめずに蠢きつづけます。。「出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い、出て来い」止まらない喉が三郎の呼吸を妨げます。(や、やめろ)と言いたいのに、喉は三郎の意思に反してひたすらに言葉を紡いで、彼の身体を苦しめ、苦しめ、苦しめ……ついに三郎は、白い泡を噴き出しながら、意識をなくした。


 


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