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秘匿の鬼姫  作者: 長月そら葉
第6章 約束の果て
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第31話 思いがけない出会い

 碧は小石の多い滝壺の際に立ち、大きく息を吸い込もうとして咳き込んだ。息を吸った途端に腹の傷がうずき、痛みを発した。


「……くそ。ここにもいないのか、秘翠」


 仕方なく周囲を見渡した碧の目に、秘翠の姿は映らない。

 別の場所を探すために道を戻ろうとした時、碧は背後に気配を感じた。敵意ではないものだと判断し、振り返る。


「あんたら、誰だ?」


 眉間にしわを寄せた碧が問うと、白髪の老人が目元を緩ませた。彼の後ろに隠れている少女は、緊張の面持ちだが。


「お初にお目にかかる。我が名は浪。この山の奥にある鬼の隠れ里にて、皆に長老として慕われておる者だ」

「わ、わたしは鈴女と申します。秘匿の姫様……いえ、秘翠様の世話役を申しつかっておりました」

「あんたらが、鬼の一族。……秘翠が何処に行ったか、知らないか?」

「……ほう。きみは我々を責めないのだな」


 碧が冷静に見え、浪は感嘆する。彼は秘翠を閉じ込め続け、更に奪い返そうとする自分たちに対して碧が敵意を持っていると思っていた。しかし、碧の様子を見ると違うらしい、と首を傾げた。


「……」


 その言葉を聞き、碧は拳を握り締めた。

 本当は、今ここで何故秘翠を閉じ込め自由を奪い、今も傷付け攫おうとするのかと詰問したい。それに対する反省はないのか、秘翠がどれほど悲しく寂しい思いをしたのか考えたことはあるのか、と碧は問い質したい気持ちでいっぱいだった。

 しかし、碧は静かに首を横に振る。


「今、それをする時じゃない。今大切なのは、お前たちが秘翠の居場所を知っているのか否か。もしも里にいるって言うなら、会わせろ」

「残念だが、里にはいない。更に言うならば、連れて行ったのは里の者ではない。厳密には里から離れてしまった者たちだが、もう交わることはないだろう」

「元里の者ってことか。そこまで言うなら、目星くらいはついているんだろう? 鵺や茨を向かわせたって言うのなら、俺は負けない。お前たちに、秘翠を渡しはしない」


 逸る気持ちを押さえ、碧は浪に詰め寄る。


「教えろ、秘翠が連れて行かれたであろう場所を」

「死ぬかも知れぬが、それでも良いのか?」


 年の功か、浪は淡々とした態度で碧に問う。碧が真剣な眼差しで頷くと、軽くため息をついた。そして浪は、後方にそびえる山を振り返る。


「……酒呑童子回帰派は、あの山の奥に拠点を置いておる。酒呑童子様が村人に閉じ込められた、洞窟の先だ」

「山の奥、か」


 碧は浪たちの横を通り過ぎ、その山奥へと進もうと歩き出す。その背中に、浪の後ろに隠れていた鈴女が「待って下さい」と声を張り上げた。


「あなたは、その洞窟が何処にあるのかご存知なのですか?」

「……いや、知らない。でも、しらみつぶしに探すしか方法は」

「わたしなら、近くまで案内出来ます。いえ、案内させて頂きたいのです」

「どうして」


 碧は心底驚いた。彼女たち鬼は、秘匿である秘翠を奪い返すために碧を敵視している。その敵を鈴女は助けようとしているのだから。

 すると鈴女は浪と頷き合い、控えめな仕草で碧の前に進み出る。そして、しっかりと碧の目を見上げた。


「その前に、あなたに尋ねたいことがあります」

「……何だ?」

「あなたは、何故秘翠様を探すのですか? 秘翠様を始めとした鬼の一族とあなたは、本来交わることのない運命をたどる者同士。しかもこれは、秘匿の力をめぐる鬼の一族同士の問題でもあります。何故、そんな大怪我をしてまで……」

「秘翠だから。鬼とか人とか関係ない。俺は、秘翠と約束したから迎えに行く」

「……承知致しました」


 碧の真っ直ぐな視線にさらされ、鈴女は頷く。


「ついて来て下さい。この山は、鬼を隠すために普通の人が入っても正しく目的地にたどり着けないようになっています。ですから、わたしを絶対に見失わないで下さい」

「わかった」


 鈴女が足場の悪い山道を歩き出し、碧は彼女について行く。浪は滝壺の傍にたたずみ、彼らを黙って見送った。

 碧たちの姿が森の奥へと消えると、浪はようやく息をつく。そして、背後に下り立った気配に向かって命令を下す。


「彼を追え」


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