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秘匿の鬼姫  作者: 長月そら葉
第5章 少女の由縁
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第23話 茨

 やがて冬休みに入り、碧も未来も昼間家にいることが多くなった。

 今までならば未来が道場に出掛け、碧は自宅で宿題をするか何か別のことをしていた。しかし今は逆転し、碧が道場に出掛けて未来は家で秘翠と共にいることが多い。

 今朝もまた、碧は早くに家を出て行った。


「兄さん、怪我治り切ってないのに……よく行くよね。そう思わない? 秘翠さん」


 一緒にテレビを見ていた未来がそう言うと、秘翠は苦笑いを浮かべた。


「そう、だね。でも一生懸命だから、わたしは応援したいな。……わたしに出来ることは、あまりにも少ないけど」

「秘翠さん……」



 切なげに伏せられた瞼に、未来はかける言葉を失くす。そして気を取り直し、テレビに映っているバラエティー番組へと話題を変えようとしていたのだが。

 ガタンッと音をたてて秘翠がソファーから立ち上がった。未来が「どうしたの」と尋ねるより早く、秘翠は玄関を出て行く。


「待って!」


 未来が慌てて追いかけると、外には秘翠と共に出掛けていたはずの碧の姿があった。碧は秘翠を背に守るようにして、太刀を手にしている。


「兄さん!」

「未来か。悪いが秘翠と一緒に家に……」

「させるかよ!」


 碧の言葉を遮ったのは、未来が以前家の中から見た青年だった。筋骨たくましい彼は確か、茨と名乗ったか。

 茨は叫ぶと同時に腕に巻きつけていた蔦を縄のように使うと、力強く蔦で叩きつけて来た。蔦は高速で碧に襲い掛かり、押し潰そうとした。


「くっ」


 しかし、碧も簡単には負けない。腰に佩いていた太刀を抜き、襲って来た蔦を両断した。勢い余って吹き飛ばされた蔦の端が未来に向かい、碧と秘翠が同時に叫ぶ。


「未来!」

「未来ちゃん!」

「――っは!」


 未来は護身用にと玄関に置いていた竹刀を振るい、蔦の切れ端を弾き返す。

 びたんっと跳ねた蔦は動かなくなり、未来はほっと息を吐く。ニヤッと白い歯を見せて笑った。


「あたしの力も、全くの無力じゃないみたいだね」

「無茶しやがる」


 得意げに自分を見た妹に笑みを向け、碧は改めて茨と向き合った。


「ふん。前よりはいい面構えしてるじゃねえか、騎士さんよ」

「いつまでもギリギリの状態じゃ、かっこつかないだろうが。それに、もう何にも負けないし、あいつを絶対泣かせないって決めたんだ」

「へぇ?」


 ちらり。茨の視線が未来の背に守られた秘翠へと向かう。


(あの秘匿の姫さんも、顔つきが変わった、か?)


 茨は軽く頭を振り、雑念を追い出す。そして碧と目を合わせると、いつものような好戦的な視線を浴びせた。

 軽くトンッとその場で跳ぶ。茨は準備運動代わりにその行為を数回繰り返し、力強く地を蹴った。


「――ッ」

「やっぱ、ただのヒトは遅いな!」

「五月蠅い!」


 一気に距離を詰められるも、碧は茨の攻撃を太刀で撥ね返す。

 数え切れない程鍛錬を繰り返し、夜切と名付けられた太刀は碧の手に馴染んで来た。まだまだ見習い剣士ではあるが、師匠である聡太にも負けない技量を身に付けつつある。それもまた、碧が信じ護りたいと願うが故。


「未来、秘翠を頼む」

「え、兄さん!?」


 待って、と未来が叫ぶのを聞かず、碧は家から走り出す。それを見て、茨は一瞬迷いを見せたが、碧を追う選択をして屋根に上り駆ける。

 その展開に、更に一歩前に出ようとした人物がいた。


「あっ」

「だめだよ、秘翠さん。兄さんがここにいてって言ったでしょ」

「でもっ……」


 未来に腕を掴まれ、秘翠は立ち止まる。彼女の言葉にグッと反論を失って、秘翠は碧と茨が去って行った方向を見詰めた。


「碧くん……」


 何も出来ない自分がもどかしく、秘翠の手は固く握られていた。


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