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セリフ劇「木田と神谷」  作者: 杉原真
4/4

Scene.4 キッチン

「で、今夜は何をご馳走してくださるのかしら?」


「花より団子か。これから作り置きを作るから、」


「うんうん。」


「それで余った食材でなんか作るよ。」


「えーっ」


「嘘だよ。ちゃんとその分は買ってきたから。」


「えへへ、やった!」


「で、神谷は見てる?手伝う?どっちでもいいけど。」


「もちろん手伝うよ。何すればいい?」


「そうだなあ。じゃあ、ジャガイモの皮剥いて、芽を取ってくれるか?これ、ピラーな。使い方わかるか?」


「そのくらいはわかるよ。家でもお手伝いするもん。」


「へえ、えらいな」


「何よ、ぜんぜんしないと思ってたの?」


「だってバスケの練習って毎日あるんだろ?疲れるだろうに、と思ってさ。」


「あ、ほんとに褒めてくれたんだ。」


「まあな。じゃあ、エプロン貸してやる。」


「で、何を作るの?」


「カレーと豚丼とポテサラと手羽先の甘辛煮、かな。」


「そんなに?すごいね。あれ、でもそのキャベツは?」


「ああ、キャベツは切って冷凍しとく。朝飯とかに便利だから。」


「木田、いいお嫁さんになれそうだね。」


「ああ、俺も実はそう思ってる。あ、指切らないように気をつけろよ、皮剥いたとこは滑るから。」


「うん、気をつける。木田はどうやって料理覚えたの?」


「ああ、最初はお袋に習ったよ。中二の時だったかなあ、いや、中一の年末だな、一番最初は。」


「じゃあ、一人暮らしを始めてからじゃないんだ。」


「そうそう、一人暮らしは去年からだから。」


「へえ。全然知らなかったよ。」


「そりゃ、誰にも言ってないからな。俺、六つ上の姉貴がいるんだけど、」


「えっ、そうなの?妹さんはいるの知ってたけど。」


「ああ、神谷の妹と同級生だったな。」


「うん。妹さんは東京の中学校に転校したんでしょ?元気にしてる?」


「正月に会った時は楽しそうにしてたよ。」


「よかった。ほら、東京に行ってもいじめられないじゃない。」


「ん?ああ、さっきの話か、あははは、冗談だよ。」


「そうだと思ったけど。」


「あ、それで、姉貴の話な。」


「あ、うん、そうだった。」


「姉貴が東京の大学に行って初めての正月の里帰りって時に、お袋が風邪引いて。それで仕方なく料理の手伝いしたのが最初だったな。」


「へえ、お姉さんのために始めたんだね。」


「うーん、姉貴のためってこともないけど、でもまあそうとも言えるか。里帰りしてあんまり粗末な正月だと可哀想とは思ったから。」


「女性に囲まれて育ったんだねー、木田は。」


「そうだな。」


「でもお引越しの話を聞いた時はビックリしたよー。」


「親父の転勤が決まったのが中学の卒業式の直前だったんだよな。」


「うんうん、妹から木田の家が東京に引っ越す、って聞いたのね。」


「ああ、妹は転校することになったからな。」


「てっきり木田も東京に行くんだと思ってたよ。」


「卒業式の日に説明しようかと思ったんだけどさ、神谷、大泣きしてたから遠慮しといた。」


「えーっ、見てたの?やだぁ」


「いや、だってすごく目立ってたぞ?」


「うぅ…」


「で、今に至ると。」


「ちょっと、いきなり現在まで飛ばないでよっ」


「なんかあったっけ?」


「入学式の時に木田がいたから驚いたんだからね。」


「あはは、そうだったな、『なんでいるの?』って言われた。」


「うん、そしたら『入学式だからな』って。もう、人の気も知らないで。」


「ははは、そんなに心配してくれてるとは思わなかった。」


「心配?」


「イテッ、なんで蹴るんだよ。」


「両手がふさがってたからよっ」


「そういう意味じゃない!」


「あははは、ねえ、木田、ジャガイモ、これでいい?」


「おう、きれいに剥いたなあ。ありがと。」


「お料理、楽しい?」


「ああ、楽しいな。」


「どんなところが?」


「まず、後に残らない。食べちゃうから、置き場に困らない。」


「あっ、さっきは倹約のためみたいに言ってたけど、趣味なんだね。」


「まあ、そうとも言えるかな。プラモデルみたいなモノを作る趣味って、置き場に困るじゃん。」


「なるほどぉ、それから?」


「料理って足し算で作っていくから、過ぎると失敗するとこかな。塩入れすぎ、焼き過ぎ、煮過ぎ、いろいろ過ぎると美味しくなくなる。」


「うんうん、そうかも。」


「それと、かっこつけるわけじゃないんだけど、季節を感じられること、かな。」


「あっ、旬の食材とか?」


「そうそう。季節になると、供給量が増えるから値段も下がるし、美味い。」


「あはは、そうだね。ねえ、今は?楽しい?」


「うーん。実はさっきから考えてたんだけどさ、」


「え、なによ…」


「俺は、これをずっと夢見ながら料理を覚えたような気がする。」


「これ?何よ、これって。」


「神谷と並んで料理すること。」


「よくわかんないんだけど?」


「俺、神谷のことが好きだからさー」


「えっ、ちょ、急に何言って…えっ?」


「だから、今はすげえ楽しい、ってこと。」


「えっと、待ってね、いったん落ち着くから…。あー、びっくりした。」


「そんなに驚かなくても、好きでもない女を家に上げたりしないだろ。」


「あのね、木田、軽々しく『好き』なんて言わないほうがいいと思うけど?」


「そっか、軽かったかあ。じゃあ、ちゃんと言う。俺、神谷のこと、好きだよ。」


「……」


「やっぱ迷惑だったか?」


「うー、もう…」


「え、神谷、何泣いてんだよ、だいじょうぶか?」


「私だって…す…で…ないお・・・この…」


「何言ってるかわからないぞ。イテッ、だからなんで蹴るんだよ。」


「ハァ。私だってね、好きでもない男の家なんかに上がらないよっ!」


「えっ」


「というかね、うちの高校に入ったのだって、木田が受けるって聞いたからなんだからね!なのに入学前に引っ越すとか聞いて、卒業式で悲しくて号泣して、そしたら入学式に木田がいて…。今はそんなことどうでもいいけど、今日は絶対木田に気持ちを伝えるんだって意気込んで、駅で待ち伏せして、勇気出して声掛けたのに、なんで…、なんで先に木田が言っちゃうのよっ!」


「ぷっ、あははは、ごめん、笑ったらだめなとこだけど。イテッ、わかった、ごめんごめん。」


「なんで笑うのよぉ」


「だってさぁ、神谷、虎視眈々とタイミングはかるって言ってたのに、全然ダメじゃん。」


「木田こそ、告白しないって言ってたぁ」


「そういえばそうだったな。でももう止められなかったんだよ、この状況が嬉しすぎて。」


「もー、木田のバカ、いじめっこ」


「別にいじめたわけじゃ、うわ、やめ、ばか、ちょ待て、あぶないから、わかったから」


「うー」


「包丁持ってんだから、ちゃんと手洗うから」


「やだ、離れない」


「ほんとに女バスの機動力と攻撃力はすげえな。こら、濡れるぞ、待てってば。」


「……。」


「……。」


「……っ!」


「…ふぅ、落ち着いた?」


「ううん、心臓バクバク」


「俺も…」


「キスの前に言わせてほしかった」


「ん?」


「ずっと、あなたが、好きでした」


「いつから?」


「え?」


「いつから、その、俺のこと…」


「ああ、中三の春にまた同じクラスになって、なんか気がついたら好きに、なってて…」


「勝ったな。」


「え」


「俺は中一の時からだからな。」


「えー、さっき、いじめられて情けなかったって言ってた。」


「だから好きな女に男扱いされてなかったら情けないだろうが。」


「うん…。でも、もう大丈夫だよ。」


「何が。」


「私、ちゃんと男として木田のことが好きだよ。」


「へへっ」


「だからー、なんで笑うのよっ」


「いやあ、だって、嬉しすぎて。」


「もー。…じゃあ、もう一回。」


「ん?」


「キスして。」


「ん。」


・・・おわり。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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