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セリフ劇「木田と神谷」  作者: 杉原真
1/4

Scene.1 電車

「木田。」


「よ。帰りの電車で会うなんて珍しいな。」


「そうだね。なんか久しぶり。同じクラスなのに。」


「女バスは休み?」


「うん、昨日負けたから、今日はオフ。」


「そっか、県大会まであと二つだったのに惜しかったな。」


「トーナメント的にはそうだけど、まるで歯が立たなかったから。」


「へえ、そんなに強かったんだ。」


「強かったぁ、体格も鍛え方も全然違うの。」


「ガチ勢って感じ?」


「うん、私たちもいい加減にやってたわけじゃないけど。え、待って、木田、女バスの試合のことなんてよく知ってたね。」


「ああ、たまたまな。三年は昨日で引退なんだろ?新体制は決まった?」


「うん、少し前に。」


「神谷は何かやるのか。キャプテンとか?」


「まさか。キャプテンは葵ちゃん。私は一応副キャプテン。」


「葵、って、ああ、五十嵐か。」


「うん。エースだからね、葵ちゃん。」


「五十嵐ってクールな感じだよな。」


「ああ、男子からはそう見えるかもね。背高いし。でもけっこう乙女だよー」


「そうなんだ。」


「趣味はクッキーづくりでね、よく作ってきてくれるんだけど、美味しいの。」


「へえ、意外。お菓子は几帳面にやらないとうまくいかないからな。」


「木田も作ったことあるの?」


「シュークリームな。」


「えーっ」


「声でかっ。いいだろ、別に。」


「だって木田、一人暮らしなんでしょ?」


「ああ、神谷には話したんだったな。」


「で、シュークリームは誰に作ってあげたの?」


「んー?誰に、って自分で食ったよ?」


「あははは、一人でシュークリーム作って食べたの?」


「そうそう。なんかテレビでやっててさ。もっと難しいのかと思ったんだけど、けっこう上手にできちゃって。あんまり面白くなかった。」


「上手にできたならよかったじゃない。」


「いや、もっと苦労して上達する、みたいなのを思い描いてたんだよな。」


「じゃあ今度作ってきてよ。」


「やだよ、恥ずかしい。」


「えー、苦労して上達して、それからどうするつもりだったの?」


「それから?」


「うん、例えば好きな子にプレゼントするとか?」


「ああ、なるほど。別に何も考えてなかったな。そもそも男が女に手作りシュークリームをプレゼントするってどうよ。」


「別にいいんじゃない?ジェンダーの時代なんだから。」


「そうだな、別にいいか。でも似合う似合わない、って問題はあるだろ。」


「似合わないからギャップがあっていいんじゃない。」


「ちぇ、似合わなくないよ、とか言えないのかよ。」


「あー、考えもしなかった。」


「ま、神谷にお菓子作りの似合う男だと思われてもな。」


「中一の時の木田のままだったら似合うかも。」


「チビだったからなあ、俺。」


「ねー。気がついたら大きくなってたよね。」


「そうだな、中二の時は別のクラスで、中三でまた同じクラスになって、その時驚いてたもんな、神谷。」


「うんうん、木田の背が伸びてたことより、そんなに会ってなかったっけ、って。そっちのほうが驚きだった。」


「神谷はE組だったからな。」


「うん、木田はA組だったでしょ?クラスが離れると会わないもんだよね。」


「そう、だな。」


「それがまさか同じ高校とはねえ。」


「たしかに。神谷は一高だと思ってた。」


「うーん、一高は遠いしね、バスケも続けたかったし。」


「え、一高ってバスケ部ないの?」


「一応あるにはあるらしいけど、部員も少なくてあんまりちゃんと活動してないって聞いたの。木田はどうしてこっちに残ったの?ご両親は東京なんでしょ?」


「田舎者が東京の高校なんかに転入したらいじめられるからだよ。」


「あはは、木田をいじめられる子なんかいるのかなぁ」


「バカ、肉体的ないじめだけがいじめじゃないだろ。」


「それはそうだけど。でも精神的ないじめだって、木田には通用しない気がする。」


「お、さすが元いじめっ子。」


「えー、私いじめてないよぉ。中一の時は可愛がってたけど。」


「可愛がってたのか、気づかなかった。」


「えっ、もしかしてイヤだった?私、悪いことしてた?」


「イヤではなかったけど、当時は少し情けなかったかな。」


「どうして?」


「どうして、って、神谷、背中からおぶさってきたりしてただろ。」


「あはは、そういえばしてたね。」


「普通、中学生にもなったら女子は男子にそういうことしないじゃん。だから男に見られてないって情けなさはあったよ。」


「そっか。」


「幼馴染とかならわかるけど、中学で初めて会ったからな。」


「ごめん…」


「いや、責めてるんじゃないけど。中三の時はなかったしな。」


「そうなの。木田が大きくなってて、おぶされなかった。」


「しようとしてたんかい」


「あ、木田だ!って思ったんだけど、近づいたら大きくて、抱きつくみたいになるからやめた。」


「そんなことされてたら心臓止まってたぞ。」


「あははは、ねえ、私は?」


「ん?」


「中一の時と、印象違ってた?」


「うーん、よくわからないなあ。」


「女の子の変化に気づけない男はモテないよー?」


「はいはい、モテなくてけっこう。」


「あ、わかった、こっちに彼女がいるんでしょ。」


「なんで今の会話の流れでそうなるんだよ。」


「いないの?」


「いるわけないだろ。」


「ふーん。あ、木田、今日バイトは?」


「今日はないよ。月曜は休み。」


「じゃあさ、ちょっと寄り道しない?」


「寄り道?どこに?」


「どこって、決めてないけど。」


「さては、神谷。」


「なに…?」


「部活がなくて何していいかわからないんだろ。」


「え、うん、まあ、そんな感じ。」


「暇つぶしはいいけど、何するかな。」


「木田は何するつもりだったの?」


「俺?月曜日はスーパーとドラッグで買い物して、家で料理だな。」


「あはは、女子力高いねえ。」


「一人暮らしってのは大変なんだよっ」


「そうだよね、ごめん。」


「ま、想像つかないよな。俺、週6でバイトしてるからさ、作り置きとかするんだよ。」


「えっ、週6ってほぼ毎日じゃない!」


「そうそう。親に学費は出してもらって、生活費は自分で稼ぐって約束だからさ。」


「それは大変だね、と言いたいけどたしかに想像つかないかも。」


「俺はあんまり物欲ないし、もともと住んでた家だから家賃もないから、すごく貧しい暮らしはしてないけどさ、贅沢はできないからなるべく自炊してるんだよ。」


「そっかぁ。じゃあ、見学していい?」


「見学?何を?」


「だから、木田のお買い物とお料理。」


「はあ?ダメに決まってるだろ。」


「なんで、いいじゃない。女子力の勉強ってことで。あ、駅着いたよ、行こっ!」


「おいおい。」


・・・。

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