誰かの味方③
キャリーバッグを引きながら宛てもなく歩いてると、どこかの住宅街に入ってしまった。
とにかく家から出来るだけ離れたい、でも電車とかに乗る勇気はなくて、歩けるところまで歩いていたが、だんだんと足が疲れてきたし、また吐き気がしてきた。
どこか休憩できる場所と思ってお店を探すけど、こんな住宅街にあるわけないよね…。
勢いだけで行動したらダメだなと思っていると、1軒の洋館が目に入った。
ここら辺は建売住宅街っぽくてみんな同じ外観なのに、この家だけ明らかに違う。
興味を引かれて洋館の前に行くと、門は開いており、ドアに何かプレートが掛かっている。
よく見ると『こころ保健室』と書いてあった。
保健室って、学校にある保健室のこと…?
どういうことなんだろう…。
本当に保健室なら休憩できるのかな…。
う、また吐き気がしてきた…!
だんだん吐き気の間隔が短くなってきたし、我慢するのもしんどい…。
トイレを貸してもらえないかだけでも聞いてみよう。
インターホンを思い切って押してみる。
「はーい、どうぞ。」とインターホン越しに返事があった。
ガチャっと玄関の扉が開くと、ボブカットで目がくるっとした、可愛らしい感じの女性が出てきた。
「…あ、あの」
どうしよう、勢いでインターホンを押したけど、いきなりトイレ貸してくださいって言っても大丈夫かな。
下を向いて考えると、顔が下を向いているせいか、吐き気がキツくなる。
うっ、気持ち悪い…。
「気分が悪そうですね。こちらにどうぞ。」
女性が背中を支えながら家の中に誘導し、トイレまで連れていってくれた。
「どうぞ、使ってくださいね。」
「あの、多分汚してしまうと思うんです。」
「大丈夫ですよ!出しきちゃった方がすっきりしますし、気にしないで下さい。」
ごゆっくりどうぞーと言われ、トイレのドアがパタンと閉まった。
ドアが閉まった途端、気が抜けたのか暫くトイレとお友達状態だった。