誰かの味方①
ネクタイを締めながら、鏡の前で身だしなみを細かくチェックする夫を冷めた目で見る。
ワックスなんて前は使わなかったのに、しっかり髪の毛もセットし始めた。
「今日も残業で帰りが遅くなるから、夕食はいらない。先に寝てていいからね。」
「最近残業ばかりで大変ね。無理しないでね。」
心配そうな顔をしていってらっしゃい、と夫を見送った。
玄関の扉がバタンと閉まった瞬間、顔から表情が消えたのが自分でも分かった。
「今日も不倫相手と楽しんでくるのね。良いご身分だね。」
玄関から寝室に向かい、鏡台の引き出しから封筒を取り出す。
そこには探偵に依頼した、夫の拓也の不倫の証拠が入っている。
拓也とは結婚して3年目になる。
大学時代から付き合い始め、出会った頃から数えると10年にはなる。
あんなに好きだったはずなのに、今は顔を合わせるだけで吐き気がした。
イライラが止まらないし、夜もよく眠れない。食欲もないせいか、体重も5kg減ってしまった。
鏡を見ると随分とやつれたと思ったが、そんな変化にも拓也は全く気づいていないところにまた腹が立つ!
不倫女のことで頭がいっぱいで、私のことなんてどうでもいいのね!
悔しくて許せなくて、2人をボロボロにしてやりたい!そう思うなら証拠を持って弁護士事務所に相談にでも行ったらいいのに、一歩踏み出せない自分が情けない。
拓也に未練があるわけではないが、今の私は専業主婦で経済力はない。
友人たちも結婚して自分たちの家庭を持ったせいか、関係は希薄になってしまった。
実家は県外で、新幹線で片道1時間の距離だが、もともと結婚に対してもう少し慎重になった方がいいと、結婚に反対だった両親を押し切り結婚したせいか、両親とは関係がギクシャクしてしまい、今は連絡はとっていない。
そう思うと、自分にはこんな時に頼れる人は誰もいないのだと虚しくなった。
結婚後、唯一頼りになる存在だった拓也は、今では1番嫌悪する存在だ。
それでも、生活していくためにはそんな男に縋らないといけないと思うと、何のために私は生きてるんだろうと涙が出てきた。
誰も頼れる人がいないように、誰も私のことを気にもしない。
自分という存在に価値がないんじゃないか。
涙が頬を伝って、どんどん溢れてきたけど、拭う気にもなれなかった。