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はじめまして、こころ先生②

角を右に曲がると住宅街が続いていたが、家と家の間に他の家とは違う雰囲気の、三角屋根に白い壁の洋館風の家があった。

ここの住宅街はみんな同じような建物だから建売住宅っぽいのに、この家だけ変だなぁと思っていると、こころさんは「ここです。」と言って、その洋館風の家の前で立ち止まった。


「え⁉︎ここですか⁈」

「ここです、どうぞ。」 


にこにこ笑いながらこころさんは門をくぐっていく。恐る恐る門をくぐると、ドアには『こころ保健室』と記載されたプレートが飾ってあった。


「こころ保健室?」

「あ、お店の名前です。1階がお店で、2階が住まいになってるんですよ。」


こころさんがドアを開けると、玄関に1匹のゴールデンレトリバーがキチンとお座りしていた。


「ただいま、ゆめさん。」

「ゆめさん?」

「こちらのゴールデンレトリバーの名前です。あ、ワンちゃん苦手ではないですか?」

「大丈夫です、動物は爬虫類以外は大丈夫です。」


部屋の奥に入ったこころさんから、爬虫類は私も苦手ですねと聞こえる。その時視線を感じたためキョロキョロすると、ゆめさんがこちらをじっと見ていた。大きな丸い目、毛並みはツヤツヤとしていて触ったら気持ちよさそうだ。


「あの、ゆめさんに触ってもいいですか?」

「どうぞどうぞ。ゆめさん、噛まないので。撫でてもらうのも大好きなんですよ。」 


こころさんから許可を貰って、恐る恐る背中を撫でてみる。なにこれ!気持ちいい!サラサラのふわふわで、癒されるー!ゆめさんも撫でられるのが好きというのは本当みたいで、私に擦り寄ってきた。やばい、本当に癒される。これがアニマルセラピーというやつなのかな…。


奥の部屋にいたこころさんが顔を出して、「あら、まだ玄関にいる。」と呟く声が聞こえた。


「このスリッパ履いて下さいね。こちらにどうぞ。ゆめさんもおいで。」

こころさんのあとについて奥の部屋に入ると、思ったよりも広々としており、カフェのような雰囲気の部屋だった。


部屋の家具がアンティーク調で、落ち着いた雰囲気だ。ソファに案内されると「お茶入れてくるのでお待ちくださいね。」と言われ、大人しくソファに腰掛ける。

ゆめさんもやって来て、私の足元に横になった。

改めて部屋を見渡してみると、アンティーク調の小さなテーブルが1つあり、テーブルに合わせた椅子が2脚ある。

それと自分が今座っているソファに、ダークウッド調のカウンターテーブル前に椅子が2脚あった。カウンターテーブルの奥はキッチンになっており、こころさんがお茶を淹れてくれている。

部屋に入った時にカウンターテーブルが真っ先に視界に入ったせいか、カフェ風だと思ったのかもしれない。

部屋の隅にはアップライトタイプのピアノがあり、何故かテディベアが何体も飾られていた。 

さらにガラス窓の大きな戸棚が2つある。 

1つ目の戸棚には、上段から中段にかけて小さな瓶がたくさん並んでおり、下段には大きめの瓶がたくさん並んでいる。2つ目の戸棚には、三段とも小さめの缶が陳列されていた。 


一体ここは何のお店なんだろう…。なんだが、あの戸棚にたくさん並べられている瓶や缶を見ると、深夜のせいか魔女の館にでも入ってしまったような気がして、少し背筋がゾワッとした。

いや、ここにいるのは犬のゆめさんだし、猫じゃないもんな。

魔女の使い魔と言ったら猫とか蛙って決まってるし!それに、こころさんも爬虫類は苦手って言ってたし。

うん、大丈夫、魔女の館じゃない。いや待って、蛙は両生類だったっけ…?


うーんと考え込んでいると、お茶を持って来てくれたこころさんが、「大丈夫ですか?頭が痛いんですか?」と心配をかけてしまった。慌てて大丈夫と伝えると、お茶をソファ前のローテーブルに並べてくれた。 

フワッと良い香りがしてカップを見ると、綺麗なワインレッドの色のお茶だった。

一瞬ホットワインかと思ったが、匂いは全然ワインの匂いじゃない。


「これってハーブティーですか?」

「そうです。これはハイビスカスティーです。」

「え⁈ハイビスカスって、あのハワイの⁈」 


ハイビスカスってお茶になるんだと思って驚くと、こころさんがクスクスと笑っていた。


「ハワイで咲いているハイビスカスは観賞用です。このお茶は食用のローゼル種というものを使っているんですよ。」 


なるほど、ハワイで見るハイビスカスとはまた違うハイビスカスということか。


「酸味が強いので、蜂蜜をお好みで入れて召し上がって下さいね。」


そう言ってこころさんは、コトリと小さな器を置いた。蓋を開けてみると蜂蜜がたっぷり入っている。


「これって酸っぱいお茶なんですか?」

「そうですね。クエン酸が多く含まれているので酸味が強いんです。他にも植物酸やミネラルが多く含まれていて、体のエネルギー代謝を促してくれるので、疲労回復も早めてくれるんですよ。今の柚子さんにぴったりのお茶かなと思いまして。」 


にっこりと笑うと、こころさんはカウンターテーブルにあった椅子をソファ近くに持ってきて座った。

なるほどーと頷き、スプーンにたっぷり1杯の蜂蜜をハイビスカスティーに入れてみた。スプーンでクルクルと蜂蜜をしっかり混ぜ、ひと口ハイビスカスティーを飲んでみる。


「蜂蜜のせいかそこまで酸っぱくないですね。すごく美味しい…。」 


確かに酸味はあるけど、蜂蜜がまろやかにしてくれてる感じだ。なんだかすごくほっとする。お茶をゆっくり飲むなんて、いつぶりだろうか…。 


喜んでもらえて良かったとこころさんが言うと、お茶菓子あったかなぁとまたキッチンに行ってしまった。淹れてもらったハイビスカスティーはあっという間に飲んでしまい、ポットから2杯目を注ぐ。蜂蜜をたっぷり入れて、またスプーンでクルクルと混ぜた。


「マカロンがありました!どうぞ!」 


数個マカロンがのったお皿をこころさんが持ってきて、ローテーブルに置いた。マカロンは包装されておらず、手作りっぽい。


「こころさんが作ったんですか?」

「まさか!今日知り合いから頂いたんです。私、お菓子は作ったことないですね。」

「知り合いの方から頂いたものを食べてもいいんですか?」

「もちろん!召し上がって下さい。定期的に差し入れを持ってくる人なんで、大丈夫です。」


定期的にお菓子の差し入れしてくれる知り合いって、どんな人なんだろう…。不思議に思いつつもマカロンに手を伸ばす。マカロンはバニラの香りがして、食べてみるとバニラ風味で甘さ控えな感じが絶妙で、ハイビスカスティーと同じくらい美味しかった。


「美味しいです!今までマカロンって見た目だけって感じであまり好きじゃなかったんですけど、これは美味しいですね!」

「良かった!知り合いが作ったものなんですが、味重視の人なんですよ。最近流行りのインスタ映えとかは、残念ながら無理なお菓子ばかりですが。」

「味が大事ですよ!見た目が良くても美味しくないと!」


にこにこしながらマカロンを頬張っていると、こころさんが「良かった」と呟いた。 


「良かったって?」

「顔色が少し良くなりました。道中でお会いした時は街灯の灯りだけでよく分からなかったのですが、玄関でお顔を見た時、顔色が悪くて心配だったんです。眩暈もありましたから、体調が悪いんだろうなとは思ってたんですけど、予想以上に顔色が悪かったので…。」

「…ご心配をおかけしてすみません。」

「いえいえ!マカロンたくさんあるので召し上がって下さい。」


そういえばここ最近食欲も無かったのに、このマカロンは不思議と食べられるなぁ。実はお腹空いてたとか?それともただ単に食い意地が張ってるだけなのかな…。


「そういえば、ここお店なんですよね。『保健室』って書いてましたけど、どんなお店なんですか?喫茶店とかですか?」

「喫茶店ではないですね。今の柚子さんみたいにお茶したりもしますけど…。そうですね、柚子さんは『保健室』ってどんなイメージですか?」

「保健室ですか?うーん、学校にあって、怪我の手当てとかしてくれるところって感じですかね。」

「そうですね。擦り傷とか簡単な傷の手当てをしたりします。あとは、ふらっと立ち寄って保健室の先生に愚痴を話したり。」

「確かに!保健室の先生って学校の先生なんだけど、英語とか勉強を教えてくれる先生とはまた違いますよね!癒しのイメージがあります。」


ふふっとこころさんが笑い、こころさんもハイビスカスティーを一口飲んだ。


「保健室って、病院とは違って『治療』はできないところです。でも、病気や怪我はしてなくても、なんとなく体調が悪い時…病院に行くほどではないけど、なんだかしんどいって時ありませんか?」

「…あります。」

「そういう時、病院とは違って保健室だったら相談しやすかったりします。根本的な解決にはならないかもしれませんが…。うまく言えないんですが、『治療』ではなく『手当て』するところと言ったらいいんでしょうか。」

「手当てをする場所…。」

「でも、保健室って学校や大きな企業にはあるけれど、大人になるにつれて『保健室』みたいな場所はなかなか無いなぁと思って。主婦の方や、一人暮らしの高齢者の方とかは特に…。ここはそんな方にとっての『保健室』になったらいいなと思って。」 


確かにうちの会社も大きくはないから、保健室は無い。大企業とかならあるみたいだけど、こころさんみたいな人がいるのかな…。こころさんみたいな人がいるなら、私も通いたいなぁ。不思議だな、こころさんと話してると、なんだか胸がぽかぽかしてゆっくりできる。

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