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 形状とはいえ、使用人の手によって身体が綺麗に磨かれていく。


「旦那様。ひとつ問題がありまして。身体中の傷はどうしますか?」

「ふむ……。ソフィーナよ。傷に関していずれ聞かれるかもしれぬが、こう答えよ。『魔法訓練や護身術を鍛える際にできた傷』だと言え。もしも本当のことを話せば……」

「はい。決して話しません……」


 本当は主に義母様からの暴行によってできた傷だ。

 お父様や義姉様の仕打ちはまだマシと思えるくらい、義母様からは容赦無く殴られ蹴られ、普段見えないような場所には剣で傷付けられることすらあった。

 それほど私のことが憎く邪魔な存在なのだろう。


 色々と口封じをされてしまっているが、仮に話したところでどうにかなるわけではない。

 それだけお父様の権力が強く、あっという間に揉み消されるだろう。

 危険なことはしないで、これから婚約者と平穏な日々を送れればそれで良い。


 ♢


 一週間後、婚約者が私を迎えにやってきた。


「お初にお目にかかります。ミルフィーヌ男爵家次男レオルド=ミルフィーヌと申します。この度は縁談の承諾をいただきありがとうございます」


 私の婚約者になるレオルド様がやってきた。

 短めの黒髪が綺麗に整えられ、青色の瞳がとてもキラキラしているという印象を受けた。


「モンブラー子爵邸当主のデズム=モンブラーだ」

「え……えぇ……と、お初に目にかります? ソフィーナと申します」


 ずっと物置小屋で生活していたため、どう挨拶したら良いのかがイマイチわからなかった。

 レオルド様が言っていたことを真似てみた。


「世間知らずの娘ですまぬな。ところで、そなたはまさか一人で来たのか?」

「申しわけございません。父は三日ほど前から突然の病で倒れてしまい、急遽私一人で来る運びとなってしまいました」


 レオルド様は深々と頭を下げる。

 さすがのお父様も、世間の目を気にしているため暴言などはここでは吐かずに作り笑顔を見せていた。


「そうか、お気の毒に。いずれモンブラー当主とは公の場で会う機会もあるだろう。そのときに挨拶ができるよう、治ることを祈っている」

「お気遣いありがとうございます。こちらは結納金となります」

「確かに受け取った。愛する娘、ソフィーナをよろしく頼む」

「事前に手紙で婚約の条件を拝見しましたが、本当に本日から同棲という形で引き取ってしまいよろしいのですか?」

「あぁ。ソフィーナもそれを望んでいる。もちろん、正式に結婚するまでの間はよからぬことは……おっと、これ以上は黙っておこう」


 お父様は迫真の演技を披露しているかのようだった。

 私を早く家から追い出したいため、婚約と同時に引き取らせようとしていた。

 私も家を出たいし、この話はむしろありがたいことである。


「ソフィーナはよろしいのですか?」

「はい、よろしくお願いします」


 もう隠す必要はない。

 目をキラキラさせながら喜んで返事をした。

 レオルド様は少し驚かれていたが、すぐにニコリと微笑む。


「わかりました。それでは今日からよろしくお願いしますね」


 お父様も一瞬だけ、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 私とレオルド様は、少しばかりの距離を保ちつつモンブラー子爵邸の門をくぐり、徒歩で目的地へ向かった。




 私の荷物は、子爵邸の面目のために持たされた着替えと、義姉様が不要になったアクセサリーのみである。

 カバンひとつで十分の荷物だが、レオルド様が運んでくれている。

 しかしそれでも、こんなに長い時間歩くのは初めてであり……。


「ふぅ……ふぅ……」

「大丈夫ですか? 少し休みましょう」


 私のために、歩くスピードを落としてくれていると思う。

 これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


「いえ、大丈夫です。もう少しなのですよね?」

「はい。すぐに一緒に住むということで、民衆街の空き家ですが借りていまして……」


 なぜかレオルド様は申しわけなさそうな顔をしながらそう言ってくる。


「どうしてそんなに困った顔をしているのですか?」

「え!? どうしてって……。ソフィーナに窮屈な思いをさせてしまうからですよ」


 そっか、レオルド様は私が子爵邸で生活していると思い込んでいるのだった。

 大きな屋敷から民間人が使う家となれば生活基準が落ちるから、申しわけなさそうな表情をしていたのか。

 実際のところは、おそらく大幅に生活基準が上がるのだけどね。

 もしも今まで物置小屋で生活していましただなんて言ったら、お父様がなにをするかわからないし大変なことになってしまう。

 もちろん言わないしバレないようにするため、誤魔化した。


「私は気にしませんよ。これから共に過ごすのですし、よろしくお願いしますね」

「早く私も出世し、貴族の称号をいただけるよう精進します」


 レオルド様は男爵家の次男のため、なにかしらの功績を出し男爵以上に叙爵されなければ、私たちに子供ができた場合貴族扱いにならない。

 あまりそういうことは気にせず、ゆっくりと過ごせるだけでも十分ではあるが。

 子供の将来のことを考えると、やはり叙爵されたほうが優位にはなるだろう。


 とは言っても、私たちはまだ十四歳。

 結婚するのも本来入るべき学園を卒業してからと決まっている。


 のんびりといければ良いなと思っていた。

 ところで、レオルド様はどうして私と婚約しようとしてくれたのだろうか。

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