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11【Side】

 モンブラー子爵邸。

 デズムが頭を抱えながら王宮から帰ってきた。


「おかえりなさいませ。珍しく冴えない顔をしていますね」


 妻のミアが心配しながらデズムを迎える。


「少々おかしなことになっている」

「そうですか。また変な女と不貞行為をしているのかと思ってしまいましたよ」

「さすがに毎日しているわけではない」

「一生涯しないでもらいたいですね」

「それは……」


 デズムの女癖の悪さはミアが一番知っている。

 それでも離婚をしないのは、デズムの圧力によるものであった。


「おっと、そんなことよりも妙な噂を耳にしてな。ソフィーナの件でだ」

「まぁ!! ゴミの噂なんて聞きたくもありませんわよ!?」

「いや、こればかりは情報を共有しておいたほうが良いかもしれないからな」


 デズムは頭を掻きながら困っていた。


「どういうわけか、あいつには強力な魔力があるらしい」

「は!? だって、魔力測定では年齢基準の平均以下だったのでしょ?」

「そうなのだよ。だからおかしなことになっていると言っただろう」

「なにかの間違いでは?」


 ミアとしてはソフィーナの魔力がどうであっても関係ないことだった。

 だが、もしも強力な魔力を持っているとしたら、モンブラー子爵邸から巻き上げた結納金では割りに合わないと思っているのだ。


「王宮でセバル侯爵様にお会いしてな。そのときに、『よくソフィーナ嬢を嫁に出しましたね。懐が広いのか、レオルド君の将来を期待しているのか。感心しましたよ』などと言われてしまった」

「は!? あの天下のセバル=グリフォム侯爵様がですか?」

「あぁ。あのお方の評判は知っているだろう? なぜゴミのように捨てたはずのソフィーナの件で私が褒められてしまうのかが謎だった。本来ならば多少の覚悟はしていたのだが」


 デズム子爵はセバル侯爵に対しては頭が上がらない存在である。

 ソフィーナの件である程度の制裁を受ける覚悟はしていたのだ。

 だが、それなのに褒められてしまうということは、デズムがソフィーナのことを認めているということになる。

 デズムはそれを理解していたため、頭を悩まされていたのだ。


「まさか……、結納金をもっと請求できていたのでは?」

「ありえる……。だが、もう成立してしまっているし、絶対にキャンセルされないよう国にも書類を提出して受理されてしまった。もうすでにソフィーナはこちらの駒ではなくなっている」


 デズムとミアは結納金の何倍もの金になるかもしれないソフィーナを捨てたことは間違えだったのではないかと一瞬だけ脳裏をよぎった。

 しかし、小屋に放置していたとはいえ同じ敷地内で過ごしていた時間が長かった。

 二人が出した結論は……。


「セバル侯爵様もなにかの勘違いでデズム様を褒めたのでしょう。どう考えてもあんなゴミに魔力があるとは思えませんよ」

「そうだとは思うのだが……」

「だって、もしも魔力が万能ならば、強力な魔法で水も光も自分でなんとかしていたはずですよ。でも、小屋の中は汚れまみれ。使用人にトイレの掃除だって後始末だってさせていたのです」

「あぁ、言われてみればそうかもしれないな。ソフィーナには、念のために余計な魔法は一切使うなと魔力測定の日までは命令してきたのは確かだが、さすがに生活面で魔法を使うなとは言っていない。そんなことバカでも理解できる」


 だが、ソフィーナは勘違いしていた。

 魔法の使用自体を禁止されているとずっと思い込んでいたのだ。

 しかも、それを厳守してきた。


 魔法鍛錬についても、身体の中だけで魔力をコントロールして外には出さないようにしていた。

 それが何年も続いた今、ソフィーナの身体の中には溢れるばかりの魔力でみなぎっている。

 デズムの忠告を守ってきたがゆえ、ソフィーナは規格外の魔力を手に入れることになったのだ。


 もちろんデズムもミアも、ソフィーナには魔力がほとんど持っていないから生活面でなにもできない無能な女だと勘違いをしていた。


「たしかにデズム様のおっしゃるとおりですね。だったらなぜ、セバル侯爵様は褒めたのか……」

「レオルドのような将来爵位も授かれないようなダメ人間に子爵令嬢という立場のソフィーナをくれてやったことについて褒めていたのか、もしくは……」


 デズムはそれ以上のことは言わないようにした。

 セバルが人を見下したり哀れな言葉など言わないことくらいはデズムも理解している。

 つまり、やはりソフィーナもしくはレオルドにはなにかがあるのだと心の中に留めておいた。

 だが、ソフィーナもレオルドも、将来の有望株であることなど、今のデズムには夢にも思わなかったのだ。

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