おしかけ
意味がわからん。今朝がた、お隣りの娘にくじでひいたプリンをあげた。オレは苦手だが、女子は総じてスイーツ大好き。一石二鳥で喜んでるはず。
「ええと……名前なんだっけ」
「そこからですか。隣りなのに。円水ですよ。円」
「あーよく知ってる。その節はどうも。家族葬なのにわざわざお香典までいただいて」
「それは母が。て、その件じゃなありません。『しゅらぶっかー』の編集者として出向いてるんです。“ロンリーぽこ”さん」
さすがにたまげた。プリンの恩返しではなく、娘が編集者だったわけだ。
「わけがわからん。なんの偶然だ」
「私だってそうですよ。プリンの呪いがかかったとしか、思えません」
呪い? バカな子なのかコイツは。
「あーー。残念な子をみる目つきしましたね」
「いや、そんなことは、あんまり思ってないが」
「あんまり?」
「いや……」
肩から外した斜めかけバッグ――ボディバッグとかいう――を、勝手にかまちに置いて、ふんすと腕を組む、なにやら威嚇のポーズ。
「もういいです。本題に入ります。書籍化の話です」
「却下だ」
「まだ、何も話してません。あと、喉が渇きました。お茶をもらえますが? いやなら、いったん帰って自宅から持ってきますが。母をともなって」
隣りのおばさんは、話し好きだ。オレはコミュ障ってほどではないが、何年も引きこもっていたせいで、付き合い方が苦手になってる。話の打ち切り方がわからず、ずるずるふりまわされる。めったに顔を合わせることはないが、つかまったら1時間は付き合わされるのは、過去に何度も体験ずみだ。
「それは待て。中に入れ。麦茶ならある」
こうしたやり取りから苦手だから、セールスがきても絶対インターフォンにもでない。一階リビングへのドアを開けて、先に中へ入る。「勝った」の小声が背後にした。
10畳ある部屋には、3人掛けソファに、6人が囲める食卓テーブル。その奥、開きっぱなしの4畳間には仏壇ルーム。備えおいたプリン3個が載ってる。
「おじゃまします。意外と片付いてますね。ゴミ屋敷を覚悟してスリッパ持参だったんですが」
ひかえめにリビングを見回し、百均ショップの袋を見せびらかす。買ってきたのか。
「ごちゃごちゃしたのが嫌いなタチなんだ。部屋も人間関係も」
「書籍化を断ったのもそのせいですか。座っていいですかね」
「好きなところにぞうぞ」




