タイトル
書籍化を打診した作家からの返信があった。夢の書籍化。小説を書いてる者ならば誰だって小躍りして喜ぶはず、あたしなら空を飛んでみせる。それが
“ありがたい申し出ですが、直に会うなら辞退します By ロンリーぽこ”
「っざけんな!」
デスクを思い切り叩いた。
「うるさい円水!」
「すみません……でも、先輩、書籍化打診したのに、断ってきたんですよ。ふざけんなって言いたくなりません?」
憤まんやるせない、とはこのことだ。あたしは半分逆切れで、訴えかける。先輩は、目と指はPCに固定されてるが、あたしの言葉につきあってくれた。
「そいつ人嫌いなんだよ。クラスに一人そういうヤツっていなかったか。どんな小説だ。タイトル教えろ」
「内容は、死に戻り+ざまぁで、タイトルは『異世界―第6ピコと街半分の65歳:空中ダンジョンコックピット』です」
「ぶはッツ!」
先輩が、飲もうとしたコーヒーを噴き出した。先輩だけでなく、対面デスクにいる、2人の先輩も。3人がいっせいに笑いだした。笑うなんて可愛いものじゃなく、腹をよじらせて呼吸困難に陥るレベル。職場は、10分ほど、機能不全に陥った。
「はははっは……ま、円水、おまえ、はははっ、俺たちを殺す気か…… 腹いてぇ」
「なんなんです? 変なタイトルってのはわかりますけど、そんなにおかしいですか」
憮然とした。意味が分からない。社長はちょうど席を外してからいいものの、こんな醜態を目にした日には、一斉解雇だとか、言い出しかねない。
「お前、これまでどんな小説を読んでた」
「えーと。海外SFやミステリーですね。あと時代小説も好きです。司馬遼太郎とか」
「WEB小説は読んでないんだな。いや、読んでたらその反応はない」
「じつはあんまり。画面で文字を読むの苦手なんです」
向いの女性先輩がメモ用紙に何かを書きつけててる。用紙はもちろん、プリントミスした紙を4つに裁断したものだ。零細企業の必殺技“有効利用”である。
「それでよく見つけたわね。ほら」
渡されたメモには、こうあった。
・異世界のイージス~少女の中でコックピット生活~
・第6のネフィリム ~あたし巨大ヒーローっス!~
・ピコと戦車と麦の道 ~なにもない麦の草原に放り出されたボク♀と軽戦車♂が旅をすることになったんだが?~
・「碧」14歳。さきほどの老婆に転生しました!
・この街の半分は少女のやさしさでできてます
・高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話
「なんです? タイトルをバラした?」
横からのぞきこんだ先輩が、ほおって顔になる。
「逆だ」
「逆?」
「それは全部、書籍化されたWEB小説(※)なんだ。タイトルをくっつけたんだよ」
「ええええ? パクリってこと? 訴えられるじゃないですか」
「うーむ。作家が徒党を組めばアリだろうが、薄すぎて難しいかもな。それ以前に、作家が面白がってしまうほうに1票……ひひッ。また、腹が……仕事にならん」
そう言いながら椅子から落ちて戦線離脱した。
「勉強不足よ。それ、今週中に全部読んでおきなさい」
「えええ?」
ひぇー……メモをくれた先輩からの宿題だ。だから、画面で文字読むの苦手なんです。明るすぎて疲れるんです。
「でもそれ。たしかに一度は読んでみたくなるタイトルよね。内容がそこそこなら、一発屋として売れるかも。なんていう投降サイトでみつけたの?」
「どこって、うちですよ。“しゅらぶっかー”」
昭平令ブックスの漢字のアルファベットがS、H、R。それをもじって『しゅら』。ぶっかーは『book-er』だ。
「なんですってーーー!」
「今日一番驚いた!!」
先輩たち、自社のサイトまったく見ないから。
※ 書籍化はウソです。言ってみたかっただけです。不人気な自作です。すみません。
本当は、↓こうしたかったんですが。さすがにマズかろうと。
『私、転生したら八男の盾って本気出してありふれた最強』




