催促
「いいか。金ってのは黙って入ってくるものじゃない――」
テーブルの両肘をのせて、組んだ手にアゴを置き、視線を据わらせる。芝居がかった態度で加藤さんは切り出した。いや、加藤さん宅に同居してる某さんか。お金の大切さと収益の難しさをコンコンと語っていく。
聞き流しながら、アフィリエイトが何かスマホをググると、彼の言う通り、ネット収入を得る1つの形態とある。無人で収益をあげる自動販売機、みたいに煽るサイトもあるが、真面目なサイトによれば、カンタンに稼げるものではなく、少ない客を奪い合に苦戦する模様が浮き彫りになってる。
ひとり住まい気楽というが、大きな家にひとり残された心境は淋しいものだろう。金銭面もそうだ。水道光熱費や税金だけでも、バカにならず、その費用を稼ぐ苦悩が、いま、くどいほどに説明を繰りかえす表情にも滲んでいた。
結婚、同居したのはいいが、お嫁さんと義理の両親を亡くした。その不幸は、他人のあたしには、想像もできない。
ん? 不幸? まてよ……。
そんなことって、あるものだろうか。この家を建て替えたのは、たしか、結婚した数年後くらい。娘と一緒に住むんだと、小母さんが嬉しそうに話していたことを覚えてる。
同居をはじめてから何年も経っているが、都合よく3人とも死ぬなんてことが起こり得るのか。
サスペンスの予感がしてきた。
目が鋭くなっていくのが、自分でもわかる。
「あの、お嫁さんは、葉月さんですよね。子供のころに遊んでもらいました。そいえばどうしてお亡くなりになったんです? ご両親ともども」
「いきなり切り換えてきたな。その目。なにを疑ってるかわかるぞ。残念ながら、義父はガン、義母は交通事故。場所も月日もまるで違う。なんならオレのアリバイも言おうか?」
「葉月さんは?」
「葉月も事故だ……って、なんでこんな話になる。元にもどすぞ、金っていうのは……ちょっとまて」
再度中断。テーブルに置かれた彼のスマホが、バイブしたのだ。着信音はしなかったが電話である。鳴らさない主義の人らしい。ときどきいる。嬉しくなさそうに通話ボタンをクリック。スマホを耳に押し当てながら、もう一度あたしに「ちょっとまて」と繰りかえす。
電話を終えてからも、続けるつもりが満々のようだけど、べつに望んだ覚えはないしまったくもって余計な話題だ。しかたなく付き合ってあげてるだけで、あたしは、書籍化の話をしにきたのだ。こちらはこちらで、けっこうマジ切実なのに。
「あー……うん。……いや、まて。返すのって再来月でいいって言ったよな。いきなり来月初めっていわれても」
漏れてくる声は女性だ。気が強い性格のようで、何某さんを追いつめてる。雲行きが怪しくなったみたいだぞ。
「? ああ……子供ができて、入用になったと。それはそれはおめでとう。めでたいことだけど……うーん。わかった。ふり込んでおくわ。ありがとな」
女性はかなり近しい相手だが、話からすると、彼女ではなさそうだ。少なくとも、おめでたを素直に祝えてる。
電話が終了した。あたしは、どんより顔の彼を、ニマニマして迎える。
「……なんだ」
「借りたお金は返さなきゃダメですよねー?」
「あたりまえだ」
「アフィリは、あまり儲かってないみたいですね。稼ぐの裏に悲哀がみてとれます」
「……それがどうした」
「(あたれば)お金ががっぱがっぱと、もうかる職業に、興味はありませんか」
「……お前は悪魔か」




