びばいせかい
あれ、なんかあの車こっちに向かって来てる?
なんかやばくね?
やばい、やばい、やばい
「ゴファッッ」
俺もしかして轢かれた?
全然体動かないんですけど。
これ俺死ぬんじゃね。
あ、救急車来てるし。
「大丈夫ですか」
おぉ救急車初乗車。
なんか寒くなってきよ。
救急車の中暖房の効かせなさいよ。
「大丈夫ですか、私の声聞こえますか」
聞こえてますよ。
お兄さん俺に話しかけてくれてるですよね。
すいません、返事できなくて。
声出ないんです。
「心拍、脈拍低下しています」
女の人がなんか言ってる。
え?心拍低下ってやばいんじゃね。
「ーー。ーーーー」
あ、やばい。
周りの音が遠くなってきた。
なんか沈んでいく。
あ、これはダメだ。
死ぬやつだわ。
父さん母さん先立つ不幸をお許しください。
.
.
.
あれ?ここはどこだ?俺が目覚めると白い部……(以下略)。
目の前になんか神々しい女の人が立ってるんだけど。
あれ多分神だよね。
これきたんじゃね。
きたよね、異世界転生。
おっと、まずは冷静にならなきゃね。
「お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「………うん」
「えっと。あなたは神様でしょうか」
「…………イエスかノーで言ったらイエス」
ほらみろ絶対転生だって。
チーレムきたぁぁ。
「そうですか。僕はこれからどうなるんでしょう」
ドキドキ。ドキドキ。
「…………あーもう。やめ!やめ!」
「え、急にどうしたんですか」
本当にどうしたんだよ。
大丈夫だよね、俺のチーレム叶うよね。
「あのさ、さっきから君の心の声聞こえてんだよね」
「えっ……」
うわぁ、そっかぁ、まじか。
確かに神様心の声聞こえるのはあるあるだよね。
なんで忘れてたんだろ。
「それに最近こんな展開が多すぎるんだよね、君もなんとなくこの後の流れ分かってんでしょ?」
「まぁ、なんとなく、はい」
「だよね。じゃあ色々マニュアルあるけど飛ばしていいよね」
おっと職務放棄ですか。
この神様大丈夫ですかね。
「転生先はどっかの貴族だった気がする」
「はい」
貴族!
良いね貴族!
お金あるの大事。
貴族飯堪能しちゃいますよ。
「とりあえず最初は言語チートというか『この世界の人間が使う言葉が理解できる』だけね、あとのスキルみたいなのはまぁ頑張って」
え、うそ。
自分のチートわからないの。
まじか、大変なタイプの転生じゃん。
「最低限伝えたよね?もういい?喋んの疲れた」
あ、沈んでく、この感覚あの時と一緒だ。
死ぬ時もこんなだった。
「じゃ、がんばて〜、ってあれ、ちょっと送り出す時間早すぎたかな。」
ミスってるし。
ーー
「っぃいやぁぁぁ、気持ちわるっっ」
あ、皆さんこんにちは。
生まれて一番最初に向けられた言葉はこれでした。
ひどいですよ。
そんなに俺の笑み気持ち悪かったですかね、おば……おねえさん。
この世界に来るの待ち遠しかったんですよ。
少しくらいはしゃいでも仕方ないでしょう。
因みにあの後、お母さんの胎内で意識が覚醒しました。
ちょい早かったね。
お腹の中暗くて、ドクドクしてて怖かった。
でも、ついに異世界かぁ……
「ふひひひひひひ」
おっと、また赤ちゃんが発するとは思えない声を出してしまった。
「っんきゃぁぁぁぁぁ」
あ、ちょ、痛い、痛い。
いちいち反応しすぎ。
めっちゃ垂れてる、腕から頭、垂れてるよ。
首座ってないんだから、ちゃんと頭もってよお姉さん。
「はぁはぁはぁ……ちょっと、マリアさっきから大きい声で騒いでうるさいんだけど」
「す、すみません。奥様」
どうやら我が母、ぐったりとしながらもご立腹な様です。
そりゃ産後すぐ隣で騒がれたらイライラしちゃいますよね。
改めてママンの顔見たけど、めちゃ美人だな。
金髪美女。
転生先のママンって基本的に美人よね。
この人の乳吸えるとか、サイコー。
あとマリア、首。
首がそろそろ限界です。
「ですが、失礼を承知で申し上げます。御子息には何か悪いものが憑いていらっしゃるかもしれません」
おっとそんな告げ口しちゃうのマリアさんや。
冷や汗かいてきた。
赤子遺棄フラグ立っちゃったかな。
マリア、頭持って。
ほんときつい。
重力感じてる。
「どうしてそう思うん?」
「生まれてから一度も泣かず、母胎から取り出した時には下衆な笑みを浮かべ、さらに先程からは赤子とは思えぬ奇声を上げております。まるで悪魔が取り憑いてしまったかのようです」
俺のこと嫌いなのかな。
下衆だのなんだの散々言いすぎではなかろうか。
「ふーん。まぁ成長が早いだけなんじゃね。大丈夫っしょ」
「……そうでしょうか」
やっぱそうだよ。ギャルだ。
この喋り方、それにこの行き当たりばったり感、うちのママ絶対ギャルだよ。
ギャルママだよ。
「うん。大丈夫。大丈夫。肩肘張らずいこ」
それに気遣いできるギャルだ。
いきなり捨てられんのは流石に怖いな。
泣くか。
首も痛いし、とりあえず赤ちゃんっぽく泣いておくかね。
よし、すぅぅーー
「ピィィィィィ……」
ーー
生まれて半年ほど経ちました。
もう立てます。
それに喋れます。
言語チートつえぇぇぇ。
「ねぇまりあー。いま、としいくつ?」
ベビーベットの上で手を後ろに組み、窓に外を眺めながらマリアに聞いてみる。
ふふ、一回やってみたかったんだよね。
セクハラ。
赤ちゃんだから許されるっていうのはあるよね。
「え、歳ですか?」
「うん」
「えっと、二十ごにょごにょ」
「29さいか。りっぱにあらさーだね」
「…………女性に気安く年齢を聞いてはいけませんよ」
「けっこんしてんの?」
「……いえ、しておりません」
「まぁ、そうだろうね」
「は?」
あ、やばい。
1段階声低くなったよ。
地雷だったか。
「い、いや。ほらさ、マリアさん美人だし、それにさ、家庭的だし、スタイル良いし、優しいし、美人だし、男1人に独占されるなんて事はあってはいけないことだと思うんだよ。だから、ね?ね?」
「なんかすごい饒舌になりましたね」
「うん、あんまりおこらないで」
「怒ってませんよ」
嘘だね。
素人でもわかるような殺気出してたもん。
マリアは怒ると怖いのかもしれない。
あ、そういえば異世界ならあるのだろうか。
魔法。
努力系の転生だったらそろそろ鍛錬を始めなくてはいけない気がする。
「ねぇ、まりあ」
「はい、なんでしょう。坊ちゃん」
「まほうのほんってある?」
「ほぉ。坊ちゃん、魔法に興味があるんですか」
「うん。すごいある」
「それは良いですね!私が教えましょう!」
「いいの!やったー」
なんかマリアがすごいノリノリだ。
魔法得意のかな。
もしかして、実は王家に雇われている暗殺者一族だったり、元凄腕の高ランク冒険者だったりしちゃうのだろうか。
私、気になります!
でも、さっき怒らしたばっかだしなぁ。
口封じに殺されるのとかも嫌だし、際どそうな質問はタイミングを見て聞かなきゃな。
次の日、マリアがなんかでかい道具持ってきた。
中心に大きな透明な水晶があって周囲に赤-青-緑-黄-紫-白の順で小さな水晶が数珠状に並んでる。
「えっと、まりあ、これはなに?」
いや、9割型予想がついてるよ。
魔力測定器と属性見るやつでしょ。
ちょっともう緊張してきちゃったよ。
「魔力測定器です」
はいんビンゴ。
みなさん、俺様の常人離れした魔力量が今日、世間に明かされますよ。
「へぇ!どうやってつかうの?」
「中心の水晶に手を触れるだけです」
「それだけ?」
「はい」
割と簡単だなぁ。
どういう仕組みなんだろうか。
ファンタジーに原理を求めちゃダメだな。
忘れよ。
「じゃ、もうやっていい?」
「はい、がんばってください」
ふぅ緊張する。
落ち着け。落ち着け。
俺はできる子。
天才ベイビー。
よっしいくぞぉ。
「えいっ」
まぶしっ。
あ、水晶光ってる!
光ってるけど、なんか普通。
あ、青と赤のも光ってる。
ダブル属性はレアなのだろうか。
うーん。でも特段マリアの表情に変化ないな。
真顔て。
少しは反応しましょうよ。
「どうだった?」
「あ、あぁ。普通ですね」
「ふつうかー」
「はい。ごくごく一般的な魔力量に。これまたごくごく一般的な水と火のダブル属性です」
生後半年を煽っているのかな?
生後6ヶ月を煽る生後300ヶ月オーババア。
痛い。痛すぎるよ。
生まれた時のことまだ根に持ってんだろうか。
それにしても普通かぁ。
なんとも反応しずらい。
どうせなら魔力0とかの方が主人公として良かったのではなかろうか。
まぁ今更こんなこと言っても仕方ないよね。
「ねぇ、まりあ。あおってんの?」
「え、あお、……はい。坊ちゃん生まれた時からすごく変だったのでてっきり魔力の方もすごいのかと」
「かってにあげて、かってにさげたんだ」
「まぁ魔法が期待はずれでも、剣の道という手もありますので、人生これからですよ」
「みそじにいわれたくねーよ」
「あ゛?流石に今のはダメでしょ坊ちゃん。それに29だっつってんだろ」
「ご、ごめんなさい」
前から薄々感じてたけど。
絶対元ヤンだよ、マリアさん。
うんちちょっと漏らしちゃったじゃん。
オムツなんだけどね。
ケツすごくきもちわるい。
オムツ変えたい。
よし、背に腹は変えられん。
「まりあ、うんちでたからオムツとりかえて」
うわぁぁ。結構恥ずかしい。
マリアの目もどことなく侮蔑を孕んでるし、赤ちゃんに向ける目じゃないよそれ。
なんか踏んだり蹴ったりだなもう。
「いえ、あと半刻ほどそのままにしておいてください」
え、うそまじかよ。
そんなことある?
この状態で半刻とか、痒いのできちゃうよ。
流石にそれは嫌だ。
「じゃぁじぶんでオムツかえる」
「………はぁ、」
「そこでみてて」
「…………わかりました」
「うん、ちゃんとみててね」
オムツくらい自分で変えれる。
精神年齢成人様舐めるな。
それくらいお茶の子さい……さ、い。
じゃなかった
……ケツに手が届かなくねぇか。
「ふん、ふん、ふんぐぅぅぅ……ブリッ。あ、またちょっとでちゃった」
「あの、私は何を見せられてるんでしょうか」
ほんとですね。
「できなかった。まりあ、かえて」
「まったく、仕方ないですね」
「ねぇまりあ、もうおこってない?」
「……はぁ。怒ってませんよ、どうしたんですか?」
「つぎまりあにあれやってほしくて」
「あれって魔力測定ですか?」
「うん」
「まぁ、いいでしょう」
俺のオムツを変えるとマリアが測定器へ近づいていく。
あれ、そういえばこの測定器どっっから持ってきたんだろう。
うちにこんなんなかったよね。
「いいですか?」
「あ、うん」
「いきますよ。えいっ」
いや、えいってその歳でえいっはダメでしょ。
というか、えぇぇ。
すごい光っとる。
あ、やば目潰れたかもしれん。
しかも、あれ周り全部光ってる。
全属性持ちとかほんとマリア何者なんだろう。
「どうですか?」
「まりあすごいね!」
「そ、そうでしょうっ」
すっごい嬉しそうだ。
最近褒められることないのかな。
もう少し褒めたあげよ。
「まりあのことそんけいしちゃうなぁ」
「えへへ、それほどでも」
「まりあはてんさいなの?」
「ま、まぁ、幼い頃はそう呼ばれていた時期もあった気がしますね」
「すごぉい」
というかマリア本当に何者なんだろう。
異常だよねこの魔力も。
転生者とかの可能性もあるのだろうか?
「あしたからまほうおしえてくれるの?」
「はい、みっちり教えた上げますよ。覚悟しておいてください」
「やたー」
次の日からほんとに猛特訓が始まった。
マリア調子に乗せすぎたみたい。
魔力枯渇って車酔いの倍はきついんだよ。
生後半年の赤子に何やらしてんだか。