レモネード~最高のビタミンドリンク
ここは『緑の世界』の農業都市『アグリーム』。
街では色んな農産物が売られ、郊外では色んな作物が栽培されています。
街の中にある四つ葉のクローバーの看板が特徴の一軒の市場『グルンマルシェ』は、街の野菜や果物はもちろん、他の世界の食材も取り扱っており、子育て盛りの母親にはうれしいこの上ありません。
グルンマルシェ内の片隅にあるカフェテリア『スパークル』では、開店前の朝早くから緑地に左胸の箇所に黄色い柑橘の刺繍が施されたエプロンをした一人の若い女性がある仕込みをしていましたが……。
(う~ん……、はちみつが足りないわね……。うちの目玉のレモネードが好きな人もいっぱいいるし、売り切れにするわけにもいかないわ……。そうね……、仕入れてみましょう……。)
女性は食材であるはちみつを仕入れに行きましたが、はちみつが品切れでした。
(……困ったわね……、はちみつが品切れだなんて……。)
「おや、『ナターシャ』さん。いかがなされました?」
店員がはちみつが無くて困っているスパークルの店主『ナターシャ』に声をかけました。
「はちみつはいつ頃入荷されるのでしょうか?レモネードに必要なんです。」
「申し訳ありません……。今のところ未定です……。代わりと言えば何ですがこちらの『メープルシロップ』はいかがでしょうか?さむいさむい『白の世界』のメープルの木からとった樹液をにつめたシロップです。はちみつの代わりになるかどうかわかりませんが、幼い子供でもおいしくのめるレモネードが出来ると思います。」
店員はナターシャの望みに沿えないことをわび、はちみつの代わりの食材『メープルシロップ』をすすめました。
「ありがとうございます。」
ナターシャはメープルシロップを仕入れました。
スパークルに戻ったナターシャはメープルシロップとレモンと炭できれいにした水でレモネードを作り、ためしにのんでみました。
(……はちみつとはちがうけど、けっこうおいしいわね。たしか……、幼い子供でもおいしくのめるってことは……、『子供用レモネード』として……、いえ、いくらはちみつが乳幼児にすすめられないからといってこれは……。!……そうね……、『メープルレモネード』なら悪くなさそうね。はちみつを使った方を『ハニーレモネード』とすると……。うん!これならいけるわね。)
ナターシャははちみつの代わりにメープルシロップを使用したレモネードを『メープルレモネード』として売ることを決めました。
そして、グルンマルシェが開店し、おおぜいの客が押しよせました。
「新商品のメープルレモネードはいかがですか?子供でもおいしくのめますよ!」
ナターシャは売り子として新しい商品のメープルレモネードを客にすすめました。
子供連れの客だけでなく、大人も次々と新しいレモネードを美味しく飲みました。
メープルレモネードの人気がたえない中、一人の黄色の衣装に身を包んだ貴婦人がナターシャの前にあらわれました。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」
「メープルレモネード一杯ご所望いたしますわ。それから、おつりはいりませんわ。」
貴婦人はナターシャに白貨一枚と青貨二枚を渡しました。
「あの……、こんな大金は……、とても受け取れません……。」
ナターシャは貴婦人の出した大金を受け取ることをためらいました。
「あなた……、メープルシロップの原価がどれほどかわかっておいでですの?」
「!……いえ……。」
貴婦人の突然の言葉にナターシャはとまどいました。
間に合わせに仕入れたメープルシロップの原価をあまり意識していなかったのです。
「メープルシロップは海の向こうにある白の世界原産ですわ。そこからこの緑の世界に運ぶのにどれだけ費用がかかるかわかっておいでですの?」
「!……いえ……。」
「とおい産地から仕入れるということは輸送の費用もかかるということですわ。ゆえに、地元の食材よりけっこう高くつきますの。」
「!……。」
「それからどうしてメープルレモネードが売れるのかおわかりかしら?」
「……おいしいからだと思います……。」
「それだけじゃありませんわ。原価が高いのに、いつもの地元産のはちみつを使ったレモネードと同じ値段ではメープルレモネードの方がお買い得なのは明らかですわ。」
「!……じゃあ……、売れれば売れるほど赤字になってしまうということでしょうか……?」
「そういうことになりますわね……。だから、わたくしは妥当な値段で取引しようと申しておりますわ。あなたが決して損をなさりませぬよう……。」
「!……わかりました……。さっそくお作りいたします。しばらくお待ちください。」
貴婦人は大金で取引する理由を説き、ナターシャは納得して大金を受け取ると、メープルレモネードを彼女に作りました。
「お待たせしました。」
「ありがとうございますわ。」
ナターシャは貴婦人にメープルレモネードを渡し、貴婦人は一口のんでみました。
「高級な感じでとてもおいしいですわ。」
貴婦人はおいしいとナターシャにのべました。
「ありがとうございます。」
ナターシャも貴婦人に頭を下げました。
営業が終わって、売り上げ等を帳簿に記入する中、ナターシャは仕入れたメープルシロップの値段をしらべてみました。
(!……えっ……、こんな値段……!?あの方が大金出してくれなかったら……、元が取れず赤字になってたところだったわ……。)
ナターシャはメープルシロップの値段に驚き、メープルレモネードの真の価値を見抜いた貴婦人にただならぬ何かを感じました。
(今日はあの方に感謝しなきゃね……。次は材料仕入れる前に値段をしっかり見ておきましょう……。)
それ以来、ナターシャは材料を仕入れる際に値段を見ておくことにしました。
値段を見ておくことによってさらなる商売の楽しさを見出したナターシャでした。