聖女を虐げた悪役令嬢が巻き戻ったら聖女と入れ替わっていた⁉︎
誤字脱字報告ありがとうございます。
わたくしは公爵令嬢のエブリン。
公爵家の一人娘としてお父様とお母様に甘やかされて育ってきた。
私は特別、選ばれた娘なんですもの、好きなように生きて何が悪いの?
それなのにどうして?
あの女のせいね!あの女さえいなければ…
わたくしのが完璧な存在なのに…
王子達はあの女の平凡さに惹かれたのね…
ただ、少しだけ魔力が大きい聖女というだけで他になんの取り柄もないのに!
わたくしがあの女だったら!
わたくしがあの女なら、聖女の力に美貌、才能全て兼ね備えた最高の存在になるのに‼︎
わたくしがあの女なら!
---
「エブリン嬢、貴様との婚約を破棄する。
貴様がこの聖女アリア嬢に対して非道な虐めや罵倒を繰り返していたことは調べがついておる。
それだけではない。メイドへの暴行、従者への罵倒、自分より下級の貴族に対する傲慢な振る舞い、貴様の非道な振る舞いは筆舌に尽くしがたい。
行為の残酷さを鑑み、一家もろとも公開鞭打ちののち斬首とする」
「ちょ…ちょっと待ってくださいまし…殿下。わたくしはただ公爵令嬢として同然の行いをしたまでですわ。
礼儀のなってない平民上がりの男爵令嬢に親切心から貴族としての常識を教え込んだだけです。
メイドや従者はわたくしの物ですので、わたくしがわたくしの物をどのように扱っても問題などないでしょう?」
「はっ、聞くに耐えられないな。引っ立て」
両脇を近衛騎士に拘束をされる。
「いやぁ、こんなのおかしいですわ。殿下はその女に騙されてますのよ。イヤァァァ」
抵抗するも引き摺るように会場から連れ出される。
エブリン公爵令嬢は10日後、公開鞭打ちのあと公爵夫妻とともに処刑された。
公爵令嬢だけでなく、公爵夫妻も悪行の限りを尽くしており評判は最低だったので、処刑会場には3人の処刑を求める貴族や平民がたくさん駆けつけていた。
3人の悲鳴と対照的に、観るものからは歓声や拍手が上がっていたという。
---
「ふーん、そんなに言うんなら代えてあげるよ」
目の前に白い光に包まれた金色の少年がいる。
「あ、あ、あ、あんた誰?わたくしは死んだの?ここはどこなの?もとのところへ戻しなさいよ‼︎」
わからないけど、コイツが元凶に違いない。
目の前の少年に掴みかかった。
「キーキーうるさいな。君は死んだんだよ。もう戻れないよ。戻ったところで首は絞まってるし生きてはないね。君の行いは最低なものだったから自業自得だけどね」
少年はするりとわたくしの手を避けて、ふわふわと宙に浮いている。
「何をおっしゃいますの!わたくしは最低な行いなどしておりませんわ。当たり前のことをしただけです」
ツンと横を向く。
「ふーん、処刑されても全くの反省がないんだね。たしかに魂が真っ黒だもん。良心のかけらもないね。
でも、面白いから少しだけやり直しのチャンスをあげるよ。希望通り男爵令嬢アリアとしてね。
君がアリアならもっと上手に出来てたんだろう?
是非その手腕をみせてくれよ」
というと、少年の手のひらから眩い光が溢れ、辺りが光に包まれた。
---
目を開けると見たこともない汚らしい部屋にいた。
何これ?
わたくしをこんな場所へ連れてくるなんてどういうつもりなの?
キョロキョロとあたりを見回すが、薄汚れた狭い部屋に小さなボロボロのベッドと傷のついた机だけが置かれていて、全く見覚えがない。
ゴソゴソと机の引き出しをひっくり返して、参考になるものを探す。
何もないわね。
まったく汚らしい。私がこんな汚れたものを触るなんて…
ぶちぶちと独り言をいっていると、コツコツとドアを叩く音がし、緑の髪の男の子が入ってきた。
「おはよう、アリア。朝早くから元気だね。何か探し物でもしてるの?」
男の子は床にぶちまけた引き出しの中身をチラ見している。
アリア?アリア?
視界の端にうつるこのピンクの髪は?
思わず窓辺に駆け寄り、窓ガラスに映る自分の姿を確認する。
え…これは…なに?
わたくしはわたくしではないの?
頭の中に婚約破棄を宣言した王子の姿が浮かぶ。
これは、王子の腕に縋り付いていたあの女の姿ね‼︎
夢の中の会話が頭の中を駆け巡る。
…そんなに言うんなら代えてあげるよ。
… やり直しのチャンスをあげるよ。
…希望通り男爵令嬢アリアとしてね。
男爵令嬢アリアとして
アリアとして
えーー
わたくしはにっくき聖女アリアになってしまったの?
あのクソ金色少年め‼︎
蹴り倒してやるんだから!
---
大声を出さなかった自分を褒めてあげたいわ。
さすが淑女の鑑エブリンですわ。
声は出ていないが、行動はかなり不審だ。
朝早くにゴソゴソと引き出しを漁り、突然窓ガラスで自分の姿を確認している。
緑の髪の男の子は私の行動を、目を丸くして口を半開きにしてみている。
ボロボロの服を着てますけど目は凛として気品がありますわ。
庶民らしからぬオーラが見えるのは、まぁ、わたくしの気のせいでしょう。
わたくしは疲れているのかもしれませんわ。
とりあえず、わたくしがアリアではないとは言わない方が良さそうね。
「おはよう。何でもないわ。少し引き出しの整理をしていただけですわ」
誰なのか検討もつかないけど、こんな庶民の名前なんてわたくしの口から出すだけでも汚らわしい。
「ふぅーん。そうだ、アリア!院長様がアリアのことを呼んでたよ。こないだの魔力鑑定の結果でお話があるらしい」
ああ、ここは修道院なのね。
そういえば聖女の物語を耳にタコが出来るくらい聞かされたわ。
修道院から男爵家に養女として引き取られ聖女となるシンデレラストーリー。
引き取った男爵の善行、恩義に報いる聖女。理想の親子関係と褒めちぎられていたわ。
でも、本当はもともと男爵とメイドの間の子どもで、生まれてすぐにメイドは男爵家から追い出され、子どもは修道院に入れられたのよね。
捨てた子どもの魔力量に目をつけた男爵が引き取りを申し出て、妻への配慮から実子ではなく養子として引き取るのよね。
結局シンデレラストーリーは作られたものなのよね。
魔力鑑定の結果でお話ってことは、男爵からの申し出がきたというところかしら?
これから物語でいう作られたシンデレラストーリーが始まるのね。
こんな女の身体というのは癪だけど、シンデレラの気分を味合わせてもらおうじゃない。
---
院長室がわからないから、緊張するからドアの前までついてきてと、適当な理由をつけて緑の髪の子に院長室まで連れてきてもらった。
命令をしたことはあれど、お願いなどしたことがないわたくしが、「ついてきて」とか言うなんて屈辱…
よく耐えたわ、わたくし。さすが優秀なエブリンね。
ドアをノックして部屋の中に入る。
少しふっくらとしたメガネをかけた神経質そうな女が出迎える。
「よくきたわね、アリア。お掛けなさい」
ソファに腰をかけるように誘導される。
さっきの部屋に比べて、机もソファも綺麗すぎるわ。
よく見ると高級な本も置いてあるし…
さっきの緑の男の子も痩せ細ってたし、このメガネ女だけふっくらとしているのは何か気にかかるわね。
それにその口に浮かべている微笑は、エブリンのときによく屋敷にきていた商人の表情に似ているわ。
どこかきな臭いわね。
---
「それで、院長様お話というのは何でしょう…何ですか?」
つい、持って生まれた高貴さが口から出てしまいましたわ。
メガネ女が眉を上げて怪訝そうな顔をしているから慌てて誤魔化したけど上手くいきましたかしら?
平民の言葉なんてわたくしのような淑女は口にしたことありませんもの、困りましたわ。
「前日の魔力鑑定の結果をうけて、タウンゼン男爵から養子縁組の申し出があったのですよ。
タウンゼン男爵は若い芽が摘まれることを遺憾に思われておいでで、貴女のような優秀な子がいるなら是非援助したいとお申し出くださった慈悲深いお方なのですよ」
慈悲深いお方…そんなお方がメイドを孕ませ子どもとともに捨てるのかしら…
慈悲深いお方なら才能の有無に関わらず援助するんじゃないの?
裏事情を知っているから言えることだけど、あの男爵も胡散臭いとは思ってたのよね。
「身に余るお話ありがとうございます。ですが、もう少しだけ考えさせてください」
少し下を俯いてみる。
これで悩んでいる雰囲気は出せたかしら。
「きゅ…急な話ですものね。じっくり考えて答えを出してよいですよ。でもお相手のあることですので、なるべく早めに回答しなさいね。男爵は本当に素晴らしい方なのですよ」
まさか、わたくし…いや…アリアが保留するとは思わなかったのね。
驚いたような表情が隠せてないわ。
男爵のことを念押しするってことはこのメガネ女は是が非でも養子縁組をさせたいのね。
きな臭いわね。
「ありがとうございます、院長様」
何でわたくしがメガネ女に敬称をつけないといけないのよ。本当に腹立たしいわ。
「あぁ、それとアリア。いつものようにご奉仕をしなさい。終えたら私の部屋まで直接持ってきなさいね。スペンサー修道士には私の方から渡しますので」
部屋を出る前に袋に入った石を手渡される。
空の魔石?
修道院でこれを何に奉仕するのかしら?
わたくしに命令をするのは腹立たしいけど、この場をすぐにでも離れたいので許してあげましょう。
メガネ女と話しても不快ですので、あとはスペンサー修道士に確認しましょう。
---
緑の男の子が待っていませんわ。
主人が用事がある際は、待つのが従者の基本でしょう。本当に育ちがなっていませんわ。
ただ、待つことも出来ないなんて。
「やーい、レオン。これ返してほしかったらここまで登ってこいよ」
「泣き虫レオン」
ガハハと笑い声がするわ。
どこかしら?従者がいないと部屋も帰れないし、とりあえず声のする方へ行ってみるかしら…
「返してよ〜お願いだよ〜」
あらっ、木の上に向かって泣きながら叫んでるのはあの緑の男の子ですわ。
知る必要はありませんでしたけど、レオンというのですね。
ライオンや雷を意味する男らしさを象徴する名前ですのにまったく名前負けしていますわ。
「やーい、弱虫」
木の上から叫んでる目を向けたら、わたくしの方を見たから睨んでやりましたわ。
わたくしは選ばれた存在だから罵倒も嘲笑も許されますけど、庶民が同じ庶民を攻撃するなんて、なんて憐れで下劣なんでしょう。
…一方的な虐めはこうやって見てみますと、見苦しくて下劣で美しくありませんわ。
選ばれたわたくしの美貌には相応しくありませんわ。
今後嘲笑や罵倒はやめることにいたしましよう。
「なんだよ!どうせ、また、アリアは…『こんなことはよくないわ、仲良くやりましょうよ』とか言うんだろ?
こんなよわっちい男女と仲良くなんて出来るもんか‼︎」
わたくしに怒鳴ってますけど、不敬ですわ。
別に庶民同士仲良くしろとは思いませんけど、底辺の庶民が庶民を痛ぶるなんてとても憐れでみてられませんわ。
---
石の袋をレオンに預けて、木の股に手をかけると、ゆっくりとうろに足を乗せる。
見様見真似ですけど登れるものですわね。
さすがエブリン、天才ですわ。木に登る才能もあるんですわね。
「はい、登ってきたのだから、渡しなさい」
悪ガキ2人ともわたくしをみて目を開けて固まってますわ。わかります。
こんな淑女が木に登るなんて…と思ってるんでしょう?
わたくしもエブリンの格好では登れませんけど、所詮今は汚らしい平民ですもの、少しくらい手が汚れても問題ありませんわ。
動かない悪ガキの頬をぺしんと叩いてやりましたわ。
これは虐めではなくて制裁ですわ。
目に涙を溜めながら、手渡してきたけれど、素直に渡してたら叩かれることもありませんでしたのに、自業自得ですわ。
これは指輪かしら?指輪を通したネックレスですわ。
レオンのような庶民の持ち物になど興味はありませんが、返すとしますか。
「これに懲りたら下劣な行いは慎みなさい」
口をあんぐりあけている2人に、公爵令嬢のわたくしからのありがたいお言葉ですわ。
するすると木を滑り降りてレオンの手にネックレスを握らせましたわ。
指輪に見たことのある紋章が刻まれていた気がするけど気のせいでしょう。
---
「アリア…ありあ〜…ありがとう…ぐすっ」
感謝の気持ちを述べるのはよいですけど、しつこいですわ。
「レオン、あなたも男でしたらこんなことで泣くんじゃなくてよ。強い男になりなさい。良い名前をつけてもらってるんだから名前に恥じぬ男になりなさい」
あら、わたくしとしたことが庶民にアドバイスなんかしてしまいましたわ。
手も汚れましたし、あなたが貴族ならアドバイス料の一つや二つ貰ってるところですわ。
「アリアは強い男が好き?」
レオンが泣きながら尋ねてくる。
アリアの好きなタイプなんて知るわけないじゃないの。
王子の側にいたということは強い男が好きという訳ではないと思いますわ。
だって、ある程度剣は使えますけど、強さだけだったら騎士のが圧倒的ですもの。
「ええ、そうですわ」
よくわからない時は肯定に限りますわ。話を合わせておけば良いでしょう。
「わかった」
と、唇を噛み締めて頷いてますけど、何がわかったのかはわかりませんわ。
庶民の行動は貴族のわたくしには理解不能ですわ。
---
翌日食堂へ向かうと、悪ガキ2人とレオンが仲良く話してましたわ。
悪ガキがわたくしを見てビクッと怯えているのはどうしてでしょう。
神々しいものをみると人は思わず平伏してしまうというけれど、わたくしの内側から気品や品行が滲み出てしまったのかもしれませんわ。
「レオンって案外面白い奴だったんだな」
「レオンがそんな楽しい奴だなんて知らなかったよ」
雨降って地固まるというやつですかしら。
まあ、嘆かわしい庶民同士の争いがなくなってよかったですわ。
---
今日はベンジャミン修道士がいる日と聞いたけど、どこにいるのかしら…
「レオン?ベンジャミン修道士ってどこにいるかわかるかしら?」
「アリア、まだその貴族ごっこ続けてるんだね。この時間ならベンジャミン修道士は祈りの間にいるはずだよ」
わたくしの洗練された言葉は庶民のアリアにはそぐわなかったらしく、レオンは貴族ごっこと言っている。
まぁ、溢れ出る気品は止められませんわ。
「ありがとう。祈りの間まで案内してくれてもよろしくてよ」
祈りの間がどこかわからないからレオンに聞くしかありませんわ。
「ハハッ…アリアお嬢様、ご案内いたします」
朗らかに笑うと、見様見真似で執事の礼をして歩き出す。
レオンはとても明るくなったわね。
よく見ると綺麗な顔立ちをしているし、アリアみたいにどこぞの貴族の落とし子かもしれませんわね。
あっても所詮、愛妾の子でしょうけど。
---
「ベンジャミン修道士、少しご相談よろしいでしょうか?」
修道士なんかに敬語など使いたくはありませんけど、メガネ女よりは感じがよさそうなので許しますわ。
「久しぶりだね、アリア。大丈夫だよ?どんな相談だい?」
穢れのない綺麗な笑顔ですわ。
「この袋なんですけど…」
袋をベンジャミン修道士に渡すと、ベンジャミン修道士は中身をみて顔色をかえた。
「こ、これはどこで?」
「院長からいつものようにと預かりましたの」
ベンジャミン修道士はとても慌てたように、わたくしにこの事は黙っておくようにと告げて、部屋を出て行ってしまいましたわ。
あら、袋も持っていってしまわれましたわ。
返していただいてませんが、まぁ、あとで返してくださることでしょう。
---
それからは慌ただしい日々でしたわ。
もともと修道院ではご奉仕として空の魔石に魔力を込め神殿に収めていたようですの。
でも、院長がこの空の魔石を神殿には収めず自分の懐へ入れて、横領と脱税を繰り返していたと。
本来、魔石は神殿長の息子であるベンジャミン修道士が修道院が用意した空の魔石を子ども達に渡し回収していたそうですの。
魔力量の多いアリアと数人の子供たちには、それとは別に院長が自分で用意した空の魔石を渡していたらしいですわ。
なるはど悪行の数々が、あのきな臭い雰囲気に繋がってたのですわ。
きな臭さに気づくわたくしは人を見る目がありますわ。
きな臭い人物が目の前から居なくなったことは喜ばしいことなのですが、院長から男爵へもお金が流れていたらしく、男爵も芋づる式につかまってしまいましたのは誤算でしたわ。
男爵の養女にならなければシンデレラストーリーは歩めませんことよ。
---
修道院に当局がはいったことで、レオンは隣国の国王の息子ということが判明したことは驚き以外のなにものでもありませんでしたわ。
国王の寵愛をうけていた第二夫人がこの国に帰国してる中で馬車ごと川へ突き落とされ、第二夫人は亡くなり、辛うじて助かったレオンは、事態を知った祖父母の手により修道院に隠されていたらしいですわ。
今回、隣国の国王はレオンの無事を知って、涙を流して喜んだらしいですわ。
レオンは嫌がっていましたが、隣国の王のもとへ第二王子として引き取られることとなりましたわ。
なんということでしょう?
これは、まるで、アリアではなくて、レオンのシンデレラストーリーですわ。
---
「僕はアリアと一緒でないと隣国には行かないよ。アリアを守る強い男になると僕は誓ったんだ」
黄金の髪に緑の瞳、引き締まった強靭な肉体。貴族の服を纏うレオンは少し日焼けしているものの、洗練された貴公子そのものでしたわ。
彼を庶民と思ったわたくしは見る目がなかったのでしょう。
思い起こしてみると、痩せていても汚れていても目は凛として強い意志を感じさせるものでしたわ。
わたくしとしたことが…
艶っぽい瞳で熱く語られ、思わず魅入られ頷いてしまいましたわ。
レオンを見ると胸の鼓動が激しくなって危険ですわ。
なぜか、わたくしは隣国の侯爵のもとへ養女として引き取られることになりましたわ。
そして、レオンの婚約者となりました。
聖女と交替したのに、聖女にもならず、隣国の王子と婚約していましたわ。
レオンはより気品と洗練さを磨き上げるとともに、弱者まで思いやれる優しさと公明正大さを併せ持つ立派な王子となりました。
彼の側にいるとなぜかエブリンだった時の自分の行いが恥ずかしくなりました。なぜあんなに思い上がっていたんでしょう。
レオンは庶民となっても王子となっても、周りへの態度を変えることはありませんでした。
貴族の中でも選ばれた存在であるわたくしは、庶民や下級貴族を貶んでいたのに、彼は全てに対し公平であり続けました。
わたくしが傲慢な考えを示すと、レオンはそれを正そうとしてきました。
彼の中の本当の強さとは、力が強いことではなく心が強いことだと。
彼は強く優しい心を持ち、そしてわたくしの高慢さや尊大さを指摘しました。私を正すこともわたくしを守ることだと。
今思うと、アリアの中身がわたくしという別人に変わったことも勘づいていたのかもしれません。
それでも、全部ひっくるめわたくしを受け入れ、誤ったところは何度も何度も指摘し、わたくしを正しく導いてきました。
彼の横にいるために、彼が恥じぬ人間とならぬようわたくしも精進していこうと思います。
もし、この気持ちをエブリンのときに王子に向けることが出来ていたら婚約破棄はされなかったのでしょうか。
いえ、そんなことを考えても意味はありません。
レオンの隣にいるからこそ、いる事を望んだからこそ、わたくしは変わろうと思ったのだから。
思いやりを持てるようになったわたくしは、ふと、エブリンの父と母のことが気になりました。
でも、きっとエブリンとなったアリアさんならわたくしの両親を正しき道へ導いてくれてるに違いありません。
どこか淋しい気持ちと、前回の私の行いを謝りたい気持ちはありますが、両親のことはアリアさんにお任せすることが正解なのだと思います。
アリアさんのことを認められることが最大の変化だと思いますが、わたくしはこんなわたくしの変化が嫌いではありません。
今となっては、こうしてアリアとして蘇らせてくれた金色の少年には感謝の気持ちしかありません。
なぜなら、わたくしの未来をかえただけでなく、わたくし自身も変えてくれたのだから。
そういえば、国では王子とアリアさんーエブリンが無事正式に婚約を迎えたと聞き及んでますわ。
心から二人の幸せを願っております。