商売始めました
「っらっしゃっせー!見て、見て、見て!この包丁!!どんなに切っても刃こぼれしないよ!」
「こっちは焼きたての串焼きだよ!包丁要らずの柔らかジューシー!たまんないよ!」
「なんだと!?このクズ肉売りが!出しゃばんじゃねぇ!!」
「うるせぇ!だまってろ!切り売り野郎!」
どこを歩いてもうるさい街だ。元気なことは良いが、やたら話しかけられるし、ケンカしてるのか、じゃれ合っているのか、わからない。とにかく、だりぃことばかりだ。
ゴルゾナの時と違い、黒い感情ではない事が救いだが、やはり違和感が残る。例のあれだ、嫌な神力が街中に広がっている。だからこそ、わからないんだが……。
「誰が俺の神力を宿している?クリスタルはどこだ?確かにこの広場から力を感じるんだが」
悩んでも仕方がないので俺はある作戦に出た。いや、出ざる得なかった。
それは商売だ。もう限界だった、腹が減った。思考の先には食事のことばかり。それでも金がない。さっきから串焼きの魅惑の香りが、俺の脳を溶かしていく……。
俺は噴水の傍で腰を降ろし、通行人に声をかけていく。
「ちょいとお兄さん、なんだかお疲れのご様子で、大丈夫ですかい?」
「ああ、この街に着いたばかりだからね。今から宿を探すところさ」
「それは、それは、さぞかしお疲れでしょう!私なら疲労回復の他、軽度のケガも治すことが出来ますよ!」
「今ならなんと……」
「な……なんと?」
「一回300Gポッキリ!!」
「よっしゃ!頼むわ!」
ゴルゾナで取り戻した緑色の神力は、癒やしの力『エクスチェンジ』だ。この力は俺の神力と引き換えに相手の生命力を交換することにより回復する。魔法で言うと、MPのようなものだ。故に使えば使うほど疲れてしまう。文字通り『だりぃ能力』だ。
普段なら自分にも、他人にも使うことはない力だが、今回はもはや死活問題。出し惜しみせず、存分に披露して、ガッツリ稼いでやる!そして、腹いっぱい串焼きを食べるんだ!
俺は通行人を片っ端から癒やしていった。この短時間で俺は一躍、有名人になっていた。それもそのはず、この街の名産である活力増強ドリンクなんて目じゃない程の回復力。肩こりから水虫まで、綺麗サッパリ治してしまう。まさに狙い通り。
賑わいは収まらず、10000Gを超えたあたりで衛兵に声をかけられた。
「おい!お前!営業許可証は持っているのか?あるなら提示してみろ!」
――――よし!かかった!
この時を待っていた。先に串焼きを食べておけばよかったと後悔したが、まあ、いい。まずは捕まることが最優先だからだ。
「いや、持ってないよ。俺は今日、街に来たばかりだし、営業許可証なんてないさ。なにより何も『売っていない』んだ。必要あるのか?」
「うるさい!とにかくお前を連行する。取り調べの後に領主のザコーツ様が話があるそうだ」
「ザコーツ様に謁見出来るなんて、なかなか無いぞ。お前、何者だ?」
ニヤニヤ笑う衛兵がひどく感じが悪いが、今はどうでもいい。金の稼げたし、作戦通りだ。この怪しいドリンクについての情報は治療中に聞くことが出来た。
どうやらこのモンスター的に元気が出るドリンクの販売元が、この領主であるザコーツなのだ。このドリンクはこの街で商売する者には欠かせない程の人気があるらしい。
だが、目を見るとみんな目の下に隈が出来でいる。こんなの無理をしている証拠だ。だからこそ、これは領主が一枚絡んでいると踏んだ。
もうね、なんかさ、怪しいんだよ、名前からして。俺の予想では前髪がクルンとして、髭を生やし、宝石を散りばめた、太ったおっさんのイメージが完成している。
――――だりぃけど……さあ、答え合わせを始めよう。
またまた投稿遅くなりすみません、頑張りますので嫌わないでください。