クリスタルとマリー
「ごちそうさまでした、うまかったよ」
「マリーとくせい、じゃがいものグラタンおいしかったでしょ?」
本当に美味しかった。ホクホクのじゃがいもにチーズが絡んで、白いソースのコクがまた……。いや、食レポは無粋か。とにかく、こんなに美味しいものは初めてだった。
「マリー、ありがとう、おかげで生き返ったよ」
「いいよー!またつくってあげ……」
――――ガシャン!――――パリーーーン!
何かが割れる音と怒鳴り合う声が奥の部屋から聞こえてくる。
「ごめんね、あれ、おとうさんとおかあさんなんだ……」
これが歪みのせいなのか?ただの夫婦喧嘩にしか聞こえないが。喧嘩するほど仲が良いとは聞くが、俺はそんなの信じない。これを肯定するとアーネットと仲が良いことになってしまう。それだけは勘弁だ。
とにかく、まずは街を見て回り、観察する必要が出てきた。俺は立ち上がり、マリーにお礼を言うと、薬屋を出た。マリーのことは心配だったが巻き込むのも、家族間に口を出すのも気が引けたので、この問題を後回しにしてしまった。
後で後悔するとも知らずに。
街を見て歩き、特別変わった様子がないように見えるが、やけに人が少ない。いや、少ないなんてもんじゃない、外には誰もいない。だが、どの家からも声は聞こえてくる。
「なんだ、この胸クソ悪い街は?」
こんな街を作った覚えはない。なのに、この有様はなんだ!歪みか?人間の愚かさか?クソだりぃことには代わりはないが、これがアーネットが言っていたことなのだろう。それくらい俺だってわかっているつもりだ。
俺は急いで柱を探すことにした。検討は付いている。教会だ。あそこには神力を溜めて災害などから街を守るクリスタルがあるはずだ。
教会に近づくにつれて、まるで瘴気のような嫌な神力を感じる……。
たどり着いた先の教会は、手入れのされていない、薄汚れている状態だ。敷地は雑草だらけな上、中も埃だらけで長らく誰も利用していないようだ。
すべての窓を開け、換気だけしてクリスタルに被っていた埃を払い、クリスタルに嵌め込まれている、汚れた『ピースのかけら』を回収し、ワールド・マネジメントの『ゴミ箱』へ入れた。そこに新しいかけらを嵌め込み作業は終了した。
先程まで、立ち込めていた嫌な神力が嘘のように消え去っていた。
「思ったより楽勝だったな!」
これで全て解決したと息巻いて外へ出たが、相変わらず街は静けさを保っていた。そして家の中からは怒鳴り声が聞こえてくる。
おかしい、歪みは直ったはずなのに、みんなのイライラがおさまらない。まだなにかあるのか?
妙な胸騒ぎがして、マリーのいる薬屋へと走り出す。嫌な予感がしてならない。これも神のお告げなのか……。こんなお告げをしたことはないのだか。
「マリー!いるか!?」
勢い余ってドアを蹴り開け、中に入ると頭から血を流して倒れているマリーと、父親らしき男が酒瓶を持って床に座り込んでいる。男は見るからに泥酔している。
部屋は父親が暴れたのであろう、商品やいろんな物が散乱していた。ガインはマリーの元へ駆け寄り、抱きかかえた。
「マリー!大丈夫か!?返事をしてくれ!」
マリーの父親がこちらに気付き、怒鳴り散らしたが、そんな声はもう、ガインには届いていなかった。
――――なぜ、マリーが倒れている?誰がこんなことを……誰が……。いや、それより先に手当てをしないと!
マリーを抱きかかえたままの手に力が入る。その時、少しだけ右手に光を纏っていた。
「ごめんな、マリー……すぐ治してやるからな」
どうぞ、楽しんでいってください。