ゴルゾナ
足が痛い……喉が乾いた……。もう、どのくらい歩いたのだろう?まだ街が見えてこない。ワールド・マネジメントでマップを確認するとまだ1キロくらいしか移動していない。
「チッ……神力がなさすぎて、人間とほとんど変わらねえ」
神だった頃は疲れなんて感じたことはなかった。だからこの感覚は新鮮さを感じつつも、今は一刻も早く休みたいことで頭がいっぱいだった。
「あー……だりぃな……」
その場に寝転び、空を見上げていると、今、いるのがノーピースなのだと実感する。
「おにぃちゃん、こんなところで何してるの?」
可愛らしい笑顔で覗き込んできたのは、幼い少女だった。手にはたくさんの草の入ったかごを持っている。いかにも村人Aの娘です。と言わんばかりの女の子だった。
「見てわからんのか、疲れたから休んでるんだよ」
「ここで?もうちょっと歩いたらあたしの住んでる街に着くよ?」
「……ちび、案内しろ」
「ちびじゃないもん!マリーだもん!」
小さく頬を膨らませながらもまた、笑顔を向けてくれる。実に可愛らしい。釣られてこちらまで顔が緩んでしまいそうだ。
マリーの案内でゴルゾナへ向かう道中、街に関する話を聞いてみた。
「ゴルゾナで何か変わったことはないか?」
「最近、街のみんなの元気がないの……話しかけてもずっとイライラしてて怖い……」
「イライラ?」
「うん、いつもやさしいお父さんもお母さんもずっと喧嘩してるし、たまに来るお客さんも、なんだか不機嫌になっちゃうの」
「マリーは大丈夫なのか?」
「うん!」
何故かマリーだけは変化はないようだが、このイライラが歪みに関わっているのかもしれない。これは調べる必要がありそうだ。
だが……!その前に……!やるべきことがある!
それは『食事』だ。もう、腹が減って仕方がない。それに俺は聞き逃さなかったのだ。マリーが言った、『お客さん』という言葉を!これはきっとマリーの家は飯屋に違いない!
まずは腹ごしらえをしてからだ。逸る気持ちを抑えながらマリーと街へと向かった。
街に着くと、そのままマリーの家に招待されたので付いていくとそこには飯屋ではなく薬屋だった。
――――そういや、かごになんか草を入れていたな。あれは薬草か。
期待していた分、余計に腹が減っていて、目眩さえしている状態だ。これはなりふり構ってはいられない!
「マリーさん?マリーさん?少しお訊ねしたいのですが、この薬屋では、お食事は提供されてはいませんか?」
「されていませんよ♪」
「ですよねー……」
「あたしでよかったら何か作ろうか?おにぃちゃん、お金持ってなさそうだしね」
天使だ。ここはゴルゾナ。天界ではないのに、あのクソ女神よりもマリーのほうが女神に見える。なにより可愛らしく、優しいのだ。一言、余計ではあるが。
――――1つ目の歪みってアーネットの性格なんじゃないのか?
そんな事を考えている間に何やら良い香りが部屋に広がっている。俺は席に付き、マリーの料理を心待ちにしていた。そう、あの時までは……。
「おまたせー♪どうぞ、めしあがれ♪」
「いっただっきまー……」
白い、全体的に白いのに表面は少し焦げている。たしかにチーズが名産の街だか、有名なのはパスタ。そう!パスタなのだ!ただ、出てきたのは深みのある皿にチーズを入れて焼いたような……。
「食べないの?あたし頑張って作ったのに……」
いかん!せっかく、マリーが作ってくれた料理!いくら『お約束』の展開でも、ここは完食してみせる!なんたって俺はこの世界の神。ガイン様なのだから。
震える手を抑えながら、ゆっくりとスプーンを口へと運ぶ。
――――マリー……信じてるからな。
そして……期待は大きく裏切られた。
「わりぃな……、これ、めっちゃうまいわ」
第二話、出来上がりました!どうぞ、めしあがれ♪