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『第一話 ビラとルーク』

『第一話 ビラとルーク』


どこか、中世のヨーロッパのような町並みの国である。

でも、実際ヨーロッパではない。どこだろうかね?


そんな国の中でも、都会でもなく田舎でもない町で

俺たちはちょっとばかりかっこつけようとしている

喫茶店にて話をしていた。


「ふっざけんじゃねぇ!」


以外なのか、はたまた以外じゃないのかわからない

ことを言われて、めちゃくちゃ頭にきた。

表情筋の一部がぴくぴくと働き始める。

「……。」

向かいに座ってるムカつく野郎が、声にならない

ワンクッションをおいて、改めて口を動かした。

「僕はいつでも本気だよ。」

唇が三日月形に変形する奴の顔は、いつ

見ても憎たらしい。どっか消えろ。失せろ。

俺は、軽く頭の中を整理して言われたことを

確認する。


「俺たちで、歌姫を倒せ……だと?」




男二人が喫茶店にて口喧嘩(一方的に。)をしていたら、

だれだって振り向くだろう。小柄なウェイトレスがこちらに

駆け寄ってくる。

「あのぉ……お客様、店内では―――」

言いかけて俺の向かいに座ってるイケメン野朗を見る。

で、そのイケメン野朗はというと、笑ったカオで、口もとに

人差し指をたてている。いわゆる、『シーッ』というかんじで。

「すまないね。話が終わり次第出るから。」

軽くウインク。ウェイトレスはふらふらとどっかに消えてゆく。

「くそ、イケメン野朗……。」

つい本音が。

「あっはははは。」

「……コイツ。まぁいい。」

話に戻らなければ。


「で、だ。なんで俺たちが歌姫を倒さなけりゃいけないんだ。」

「理由はわからないけど、本部からの指令なんだ。」

まぁ、何の話かわかんないと思うから、おさらいしておこう。

この大陸には、なんか目的不明の悪い歌姫がいる。

そいつはなんか歌で人をあやつるとかなんとか。

その歌姫を唯一倒せるとかいわれてる『シャオー』って

王様がいるんだが……、現在行方不明。

んでもって、だ。俺たちは、……まぁ俺は直接会ったことないが

一応シャオーの家来で、まとめて『シャオー族』なんて

名前がついている。シャオー族は俺と、俺の向かいに座ってる

イケメン野朗以外にもけっこういるらしい。俺らは

その下っ端なんだがな。


んで、最初になんで俺があんなに絶叫したのかというと、

現在のシャオー族は本来シャオーを探すために結成されている。

なのに、『歌姫を倒せ』だと?ふざけんじゃねえ。

「おいルーク。」

イケメン野朗ことルークは

「ん?」とかとぼけやがる。

「歌姫を倒せるのはシャオーだけなんだろ?なんで

 俺らが倒しに行く必要がある。無謀じゃないのか?」

うーん。とかうなるルーク。

「まぁ、最近まではそう思われてたね。でも、シャオー族も

 シャオーとおなじ血族なわけだから、シャオーと同じ

 力を持ってるんじゃないかってね。」

「可能性ってなだけで、確信はないんだな?」

「そうじゃない?」

曖昧だなコイツ。

「ビラくん。」

コイツは俺をビラくんと呼ぶ。実際俺の名前はビラだ。

『くん』付けするのが気に喰わんが、こいつと一緒に

シャオーの家来をするのは4年くらいになる。なんか慣れてきた。

「シャオーとシャオー族には、無限の可能性があるんだ。」

ルークは自分の茶色っぽい髪の毛をいじくりながら喋る。

「もしかしたら、こんな僕たちでも王様になれるかもしれないよ?」

冗談っぽく笑った。


シャオー族特有の白い服をまとった俺らは、この町の宿に向かう。

もう一週間くらいその宿を借りている。よくそんな金があるよな。

宿に着くなり、部屋に入るなり、俺は真っ白なシーツのしいてある

ベッドに転がった。静かに目をつぶる。

「もう寝るの?まだ夕方だよ?」

ルークが備え付けのテーブルに寄りかかって言う。

「俺は常時不眠症なんだ。メシの時間になったら起こせ。」

「わかったよ。その間に浴槽に沈めとくから。」

「ふざけんな。」

「あっはは、冗談だよ。」

ルークのやつ、なんだかんだ言って細身のくせに色々怖いし

なんかやりかねない。シャオー族の下っ端の中でも相当

エリートのような気だってするさ。

俺はとりあえず全身の力を抜く。とたんにベッドに体が沈むような感覚に

襲われる。もちろん比喩だ。ルークがコーヒーをいれたのだろう、

香ばしいにおいが漂っていた。



ふと起きた。いつ眠りに落ちたのかはわからないが。

とりあえず自分が浴槽に沈められたりしていないことを確信し、

目線だけでルークの姿を探す。起きるのが面倒くさい。

いた。

「……ん?」

奴に聞こえない程度に疑問符をうってみる。

めずらしくルークが電話をしていた。いや、受けた側かもしれないが。

寝たふりをしながら、こっそり会話を盗み聞きしてみた。


「え?ビラくん?あぁ、寝てるよ。」

起きてるけどな。

「……うん、そのようだよ。まぁ、僕だって最初は少しだって

 抵抗したよ。」

歌姫のことか。ていうことは本部と電話してんだな。

でもため口ってことは、俺らと同期のやつとだろう。

「……それは、本当?」

なぜか突然状況がかわった。

「わかった。見つけ次第確保する。」

受話器をおろすルーク。とりあえず俺は状態を起こす。

ベッドに座ったまま、すこしうつむいてみたり。

するとルークはゆっくりこちらに振り向く。

「起きた?まだ晩ご飯じゃないけど。」

決して天使の笑みではない、不敵な笑みで冗談っぽく笑う。

「俺はやっぱり不眠症なのかもしれないな。目が冴えた。」

「そう。今夜、睡眠薬でも盛っとく?」

「遠慮しとく。ここでYESというと、ルークならやりかねない。」

「あっはは。僕はビラくんにそう見られてるわけ?」

「お前の場合、天使の笑みじゃなくて悪魔の笑いだからな。」

「ヒドイなぁ。」

ルークはテーブルに向かい、雑誌をひろげる。

「お前、雑誌なんか読む奴だっけか?」

「たまにはね。」

なんの雑誌だか。なんか色んな怪しい薬の雑誌じゃないことを祈る。



ルークの赤い瞳が、雑誌の文字を追う。俺の赤い瞳は、ルークを見る。

腹減った。ベッドの目の前にある鏡台を見て、自分の青毛が

変にはねていることに気がついた。ちくしょう。

「ルーク、なんかブラシもってないか?」

「もってないよ。僕はもともとクセっ毛だから、持っててもムダだし。」

とか言いながら雑誌から目を離さない。

「どっかから借りてくる。」

「あぁ、だったらロビーの女性に会うといいよ。ルークの友人だって

 言えば貸してくれるよ。」

何コイツ。どこまで女を無意識のうちに落としてるんだ。

以前コイツに直接聞いたことがあるんだが、

「え?いや、別に

口説こうとか思ってないけど。」とか抜かしやがったな。


部屋を出て、ちょっと長い西洋風の廊下を進むと、

ロビーにいっぱい女がいた。従業員の。

俺は寝グセを手で押さえながら、さぁ誰に話しかけりゃいいんだとか

思ってると、

「えっと、何か?」

俺よりもすこし背の低い女。黒くて短い髪。丸い目。

「あぁ、えーっと、今日一緒に泊まってる……あぁ、ルークの

 友人なんだが……。」

「あぁ、えっとビラさんですね。」

「なんかブラシを貸してもらえないかと。」

「わかりました。少々おまちください。」

何人かの従業員が、さっさか動き出した。その一人が新しいブラシを

用意してきた。

「はい。どうぞ。」

「どうも。」

とりあえず部屋に戻るか。


部屋に戻るなり、俺はルークの横に立つ。

「ルーク。」

「なに?」

「お前、どんだけ顔広いの?」

「どうだろうね。今まで行った街のところ構わずかな。」

ふーん、とか適当に相打ちをうって鏡の前に立つ。

「あと、ビラくん。」

「んだよ。」

「明日出発するから。次のところに。」

そうかい。勝手にしやがれ。

「次はちょっと手ごわいかもよ。」

「は?単なる街なのにか?」


「行くまでが、だよ。」





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