雲の上にて
「……きなさい……起きなさい、チナ!」
「ん? ……なんだ、朝か……って、あれ?」
チナは小首を傾げた。
それもそのはず、目の前に広がっていたのは見慣れない白い綿の大地だったからだ。
「……どうやら、まだ夢の中にいるようだな。ふぁあ、お休み」
「ちょっと、なに平然と二度寝しようとしているのよ。起きなさいよ」
「なんだよ、ここはまだ夢の世界だぜ。見ろよ、美味しそうな綿菓子がそこらじゅうに散らばってるじゃないか」
「なに寝ぼけてんのよ、あれらはそんな甘いもんじゃないわ」
「甘くない綿菓子だと? 一体なんだというのだ?」
「見てわからないの? いい、このあたり一面に広がっている白いものは、何を隠そう、雲よ!」
「……どうやら、寝ぼけているのはプラ、お前の方だな。人間が雲の上なんぞに立てないのは、流石の私も心得ているぞ」
「私だってにわかに信じられないわよ。けど、現に私たちは雲の上に両の足をついているんだもの、信じる他ないわ」
「ふむぅ、そうか……まあ、降り立ってしまったものは仕方がない。せっかくの機会だこの綿の庭園を見学するとしよう」
「……」
「……」
「……存外、つまらないものね。どこまでいっても白一色、なんの面白みもないわ」
「だな、足が疲れただけだ」
「ねぇ、チナ。私、ここに来てからずっと疑問に思っていたことがあるのだけど」
「何よ?」
「雲って、どんな味がするのかしら?」
「そんなもの、水に決まって……」
「待って、言わないで。お願い私の夢を壊さないで」
「夢だぁ? まさかお前さん、雲が綿菓子の様に甘いものだと思っていたりせんだろうな?」
「お、思っているわよ。悪いかしら?」
「悪かない。だが現実はそんなに甘いものではないぜ」
「果たしてそれはどうかしら」
「強気だねぇ。では、食してみせよ!」
「望むところよ!」
そう言うと、プラは足元の雲をちぎり、口に入れた。
「……」
「どうよ?」
「……水ね」
「だから、言ったじゃん」
「チナ……どうやら私は雲に夢を見すぎていたようね」
「元気だせよ。そのうちいいことあ……ん?」
チナがそう言いかけた次の瞬間、先ほどプラがちぎった箇所を皮切りに、足元の雲が崩れ落ちた。
「え、ちょ、嘘ぉおおおおお!!」
「……きなさい……起きなさい、チナ!」
「うぅ……はっ!」
チナは勢いよく体を起こした。
「……夢?」
「どうしたの、ひどくうなされていたけど。柄にもなく悪夢でも見たのかしら?」
「悪夢……そうだな。そんなところだ」
「へぇ、あんたがそんなになる悪夢なんて、一体どんな内容だったのかしら?」
「なぁに、雲の上から落っこちるっていう、つまらない夢さ」
「……」
「……ん? どうした、プラ?」
「……その夢、私も今朝見たんだけど」
「……」
「……」
「……気持ち悪っ!」
「こっちの台詞よ!」
今日も二人の一日が始まる。