舟を作って
「あちゃー」
川沿いを歩くチナが言った。
「何? カンフー?」
隣を歩くプラが尋ねた。
「違う違う。いくら私でもこんなところでいきなり演舞を始めたりはしない」
「あら、こんなところじゃなきゃ始めるのかしら?」
「うっ、相変わらず鋭い奴だ」
「何よ、どっちにしろできないんじゃないのよ」
「悪かったな。じゃなくて、あちゃーだよあちゃー。参ったことになったんだよ」
「参ったこと? 何かしら?」
「いや、大したことじゃないんだが」
「いいわよ。言ってみて」
「えーと、この先には川を渡らないと行けないっぽいぞ」
「大したことすぎる! どうするのよ!」
「じゃあ、ご一緒に」
「「あちゃー」」
「……何これ?」
「こっちの台詞よ! ……で、どうするの? 橋でもかける」
「うーん、アタシがかけられるのは、精々、虹のかけ橋ぐらいだからなー」
「どうやら、三途の川を渡りたいようね」
「じょ、冗談冗談! ……うーん、乗り物を使うとか?」
「乗り物? どこにそんなもんあるのよ?」
「ここよ、ここ」
チナは頭を指で叩いた。
「ムカつく」
プラは右こぶしを握りしめた。
「だから三途の川を渡らせようとするな! 頭使っていちから作るんだよ!」
「出たわね、創作意欲魔神。その心意気は買うけど、乗り物なんて即席でどうつくるのよ?」
「そいつを今から考えるんだよ。とりあえず辺りを探索して、材料に使えそうなもんを集めるんだ」
「そう都合のいいものが落ちてるとは思えないけど。まあ、文句言っても何も始まらないし、付き合うわよ」
「おう、頼むぜ」
二人は手分けをしてしばらく周囲を探索した。
「まあ、こんなところかな」
再び元の場所に戻って来たチナが言った。
「おぅい、プラ。そっちはどうだった?」
チナが遠くから歩いて来るプラに向かって尋ねた。
「……こうだったわよ」
そう言ったプラは木製の舟をヒモで引っ張っていた。
「……え?」
「何よ?」
「もう作っちまったのか……この短時間で……」
「ええ」
「な、なんて奴だ……」
「って、そんなわけないでしょ。森の中に捨てられていたのよ。いくら私でも、そう簡単に舟のひとつやふたつ作れないわ」
「なんだよ、脅かすなよな。しかし、少し残念だな」
「なにがよ?」
「だって、せっかくいちから自分たちで舟を作ろう! って流れだったのに、既に完成したものを持ってきてしまうとは」
「空気が読めない奴で悪かったわね。というか冷静に考えて、二人乗りの舟をいちからつくるなんてこと、一朝一夕でできるもんじやないわよ」
「承知の上だ。一朝一夕でできてしまったら、楽しくないからな」
「そこぉ? まあ、この舟もだいぶボロボロだし、少なからず修理は必要よ」
「そりゃ好都合。それなら楽しく修理をしようぜ!」
「はぁ。まあ、渡るためにはそうするしかないわね」
二人は舟の修理に取りかかった。
「ふう、完成かな?」
チナが言った。
「そうね。ようやく先へ進めるわ」
「ああ。では早速……出航!」
二人は川に浮かべた舟に乗り込んだ。
すると次の瞬間、その舟の底か何かにぶつかった。
「む? 何だ?」
チナが小首を傾げた。
「……まさか」
プラは舟から降りた。
そしてプラのひざ丈までが川の水に浸かった。
「……」
「……」
「……粗大ゴミは」
「……ゴミ箱へ」
二人は次の街で舟を処分した。