落とし穴にて
「……参ったねこりゃ」
チナが空を見上げながら言った。
「……参ったわね、ホント」
同じくプラも空を見上げながら言った。
二人は仲良く巨大な落とし穴にはまってしまっていた。
「幸いケガがなくてよかったわね。普通こんなでかい穴に落ちたら、骨の一本や二本、軽くクラッカーよ」
「ま、そのあたりは日頃の行いのよさがでたな」
「それほどいい行いした覚えないけど?」
「気づいてないだけでしてるんだよ」
「あらま、前向きな台詞だこと。頼もしいわね」
「そうかぁ? この状況じゃ、前向きより上向きの方が何かと都合がよさそうだけど」
「上を向いた所でお空にご挨拶する以外、何もできないわよ。どうにかしてここから這い上がらなきゃ」
「それなら任せておけ、何かから這い上がるのにはなれている」
「……チナ、あんた」
「なんだ?」
「意外と苦労してるのね」
「おいおい、そんな目で見つめないでくれ、反応に困る……って意外とはなんだ!」
「なぁんて、おしゃべりしてても仕方ないわ。早速、方法を考えるわよ」
「それには及ばん、方法ならすでに思いついている」
「お早いのね、いかがなものかしら?」
「簡単さ、一人がもう一人の肩の上に足をかけて、穴から脱出して、後から残った一人をロープかなにかで引き上げればいいのさ」
「あら簡単、じゃあ早速やりましょう。チナ、踏み台役お願いね」
「おう! ……ん? ちょっと待ちなんし」
「何よ」
「何、自然な流れでアタシを踏み台役にしようとしてるんだ。おかしいだろ」
「そう? 自然の摂理だと思うけど」
「そんな自然も摂理もない! アタシは踏み台役などごめんこうむる!」
「なんでよ?」
「肩が汚れるから」
「……あのねぇ、チナちゃん。そんな小さなこと気にしてこのまま仲良く蟻さんごっこしてたら、明日にでも飢え死ぬわよ」
「そう言われても人間、嫌なものは嫌なものだ。プラが踏み台役になってくれ」
「嫌よそんなの」
「なんで?」
「肩が汚れるから」
「結局、お前も同じじゃねぇか!」
「悪い? 人間、嫌なものは嫌なのよ!」
穴の中で二人はしばらく取っ組み合いになった。
「はぁ、はぁ……こんなんじゃ埒があかない、ここは一つ、どちらが踏み台役に相応しいかじゃんけんで決めよう」
「げほっ、げほ。ええ、大いに望むところよ」
「それじゃいくぞ。最初はグー!」
「じゃんけん!」
「ポン」という声が落とし穴中に響き渡った。
「ふぅ、なんとか出れたぜ」
「ええ、私の肩という、尊い犠牲を払った上でね」
「そう言うなよ、次の街でクリーニングしてもらおうぜ」
「当然よ、両肩に足跡なんて、ファッションにしては攻めすぎだもの……というより、チナ。あんた荷物はどうしたの?」
「ん? ……あっ」
チナは落とし穴の底に目を落とした。
「……先に行っているわね」
「いやいや! 待っていてくれよ!」
チナは再び穴の中に戻った。