キノコ博士になって
「んー……中々見当たらないものだな」
森の中を歩くチナがつぶやいた。
「何がよ? 生きる意味とか?」
隣を歩くプラが言った。
「それもそうだが……って、重い! 重すぎる! そんな哲学的なことじゃない!」
「そうなの? まあ、そんなもんはどこから見つけ出すものじゃなくて、自ら作り出すものよね」
「何をそれっぽいことを言っておるのやら」
「っぽいで悪かったわね。で、何を探しているのよ?」
「んあ? これだよこれ」
そう言うとチナはふところから一冊の本を取り出し、それの1ページを開いた。
「これは……毒キノコ?」
本の写真を見たプラが言った。
「おい! 勝手に毒をつけるな! ……これは幻のキノコ、ウマミダケだよ」
「幻? じゃあこの世に存在しないわね。御愁傷様」
「おい! 勝手に終わらすな! それぐらい珍しいキノコだってことだよ」
「ふーん。まあ、精々がんばんなさいな」
「おいおい、冷たい奴だな。一緒に探してくれよ」
「いやよ。私、暇じゃないんだから」
「は? 何の用事があるというのだ?」
「それは……」
「それは?」
「……」
「……」
「……んー」
「暇じゃねぇか」
「う、うるさいわね。そんな自由研究はひとりでやりなさい」
「自由研究って……分かったよ、ただし、万が一見つけても分けてあげないからな」
「構わないわよ。別に」
「くぅーっ。見てろよ、絶対見つけ出して、一泡吹かせてやるからな!」
チナは露骨に周囲を見渡す動作をし始めた。
「ダメだ、見当たらない」
切り株に腰をおろしたチナが言った。
「ちょっと、もう休憩? 余計なことで体力を使うんじゃないわよ」
同じく切り株に腰をおろしたプラが言った。
「とか言ってお前も座ってるじゃないか」
「悪い?」
「ったく相変わらずな奴だな……と」
次の瞬間、二人の間に腹の虫の音が響いた。
「くっそー、腹の虫まで音を上げおって。仕方ないなぁ……このキノコでも食うか」
そう言うとチナは切り株のそばのキノコを拾い上げ、自らの口に入れた。
「すご。一切の躊躇いもなしに食ったわね」
プラが冷や汗を浮かべながら言った。
「腹が減っては戦はできぬってな」
「やれやれ。何と戦っているのやら」
「そうだな、強いていえば己自身と……うっ!」
次の瞬間、チナはその場に泡を吹いてひっくり返った。
「ちょっと、どうしたのよ?」
プラが尋ねた。
「か、体が……」
「は?」
「しび……しびれ……」
「……ああ、きっとさっきのキノコ、シビレダケね」
「な……なんだと」
「まあ、しばらくしたら治るわよ。でもよかったじゃない」
「な……なにが……よ?」
「一泡、吹けて」
「く……完敗……だ」
チナは戦意喪失した。