口内炎になって
「さあ、今晩のメニューは大奮発して手に入れた、巨大鶏肉を使ったドデカからあげよ! たんと召し上がっちゃってちょうだい!」
切り株に腰かけたプラが言った。
「お、おう……」
目の前の切り株に腰かけたチナが答えた。
「ん? どうしたのよ。テンションだけが取り柄のあんたらしくもないじゃないのよ」
「あ、ああ……」
「いや、そこは「テンションだけが取り柄とはなんだ!」って言うところでしょうよ」
「そ、そうだな……」
「……え? マジでどうしたのよ?」
「……実は……口内炎に……なっちまってな……」
チナが涙目で頬を押さえながら言った。
「こ、口内炎? ……そ、そう」
プラは冷や汗を浮かべた。
「……いや、なんかすまん。せっかく景気よく……うまそうな晩飯を……作って頂いたのにな」
「い、いや。謝ることはないわよ、別に」
「……そ、そうか。ありが……とう」
「……」
「……」
「……おかゆ、作るわね」
「……わ、悪いな」
プラは料理の支度を始めた。
「はい、お待ちどう。おかゆよ」
プラが皿を差し出しながら言った。
「……」
「ん? どうしたのよ、黙っちゃって」
「……増えた」
「は?」
「増えた……口内炎、ふたつに……」
「……」
「……」
「……スープ、作るわね」
プラは料理の支度を始めた。
「……お待ちどう、チナ」
プラが皿を差し出しながら言った。
「……ん? どうした……突然に元気が……ないな?」
チナが尋ねた。
「……できた」
「え?」
「……口内炎できた……私にも」
「えぇ……」
二人はしばらく黙りこんだ、
「……いくらなんでも……おかしい……な。これは……もしや……呪いの……口内炎……では?」
チナが口を開いた。
「何よ……呪いの……口内炎……って」
「前に……風の噂で……聞いたのだ。人から……人に……伝染する……口内炎が……存在する……と」
「な、なんと……おそろしい。それが……これ……だと」
「ああ……そうだ」
「ならば……打つ手は……ひとつ……ね」
「む?」
「……寝るの……よ」
「……了……解」
二人は早めに寝支度をした。
翌朝。
「あっ、なくなってる」
起床したプラが言った。
「ふぅー、まったく人騒がせな口内炎だったわ。まあ、症状が長引かなくてよかった。ねぇ、チナ?」
プラはチナの方を振り向いた。
「……」
チナはアゴを押さえてうつむいていた。
「え? もしかして、治ってない?」
「……いや……違った」
「え?」
「アタシの……口内炎じゃ……ないわ……虫歯……だわ」
「えぇ……」
二人はすぐそばの街まで引き返した。