ピラミッド前にて
「変わった形をした物件だな」
砂漠を歩くチナが言った。
「物件って……いくらなんでもでかすぎるでしょうよ」
隣を歩くプラが言った。
二人の目の前には、巨大なピラミッドがそびえ立っていた。
「さぞかし、富豪な奴が住んでおるのだろうな。羨ましい限りだ」
「そう? だいぶ、立地が悪いと思うのだけど」
「確かにそれはそうだな。こんな砂しかない大地の中心じゃ、買い物もろくにできないだろうて」
「まあ、成功者は変わり者が多いっていうしね……じゃなくて、これは誰かの自宅じゃないわよ」
「何? 別荘か?」
「家から離れろ。これは古代の権力者の墓よ」
「墓って……いくらなんでもでかすぎるだろ」
「さぞかし富豪だった……って会話をループさせるんじゃないわよ」
「それは気が利かなくてすまなかったな。しかし、これが墓とは。いやはや随分と変わり者だったのであろうな」
「まあ、本人の意思が全てとは思えないけどね。権力者として、巨大に作らざるをえなかったのかも」
「なるほどな。色々と大変なのだな、上に立つものは」
「そうね。と、過去の権力者に同情するのはこれくらいにして、先へ進みましょう」
「え? 素通りするのか?」
「当たり前じゃないのよ。他人の墓場で何をすることがあるのよ?」
「探検」
「は?」
「だから探検だよ。こんな謎だらけの建築物をただただ横切って先に進むことがどうしてできようか」
「いや、普通にできるでしょうよ」
「いいかプラ。人間という生物には必ずある血が流れているのだよ」
「……はぁ、してその血とは?」
「それは冒険者の血さ。未知なる領域に踏みいる高潔なる精神が誰にしも備わっているのさ」
「……そう、どうやら私は人間じゃなかったようね」
「お前には流れてないというのか?」
「ええ。あんたの言葉通りなら、私に人の血は通っていないわ」
「確かに、お前の発言はとても人の血が通ったものとは思えんが」
「おい、さらっとディスるなや」
「失礼。とにかく、私はこの血のうずきを鎮める為に、このリッチな墓に突入しなくてはならない」
「それはそれは厄介な血筋だこと」
「まったくだ。というわけで少しだけ私に時間をくれ、探検してくるから」
「マジ? ……まあ、あんた言い出したら聞かないからね。どうぞ、存分に観光してきなさい」
「観光じゃない、探検だ。まあ、ありがとう。行ってくる」
「……どーぞ」
チナの姿はピラミッド内に消えて行った。
十分後。
「あ、出てきた。どうだった?」
プラが尋ねた。
「……」
ピラミッドから出てきたチナの顔はえらく暗かった。
「どうしたのよ?」
「……あの中さ」
「うん」
「……空洞だった」
「あ、そう。じゃあ先へ進みましょうか」
「冷たっ!! もっと労ってくれよ!」
二人は再び砂の海を歩き始めた。