リズムゲームをして
「突然だがプラ。黄色と言ったら?」
林道を歩くチナが尋ねた。
「……月?」
隣を歩くプラが答えた。
「あら、ロマンチック」
「まあ、詩人の私にかかればこんなものよ」
「いつから詩人になったのだ?」
「今から」
「わお。現地調達ぅー」
「要領がいいでしょう。あんたも見習いなさい」
「どうも、みならい詩人です! ……じゃない!!」
「何よ、デカイ声あげて」
「月で終わらしてどうする。その先を言わなくてはゲームにならんぞ」
「その先? ゲーム?」
「……どうやら脳内が疑問符の晩餐会なご様子だな。これは今、巷で話題のリズムゲームさ」
「はあ。で、その先っていうのは何なのよ?」
「それはリズムにノリながら言うんだよ「月と言ったら」ってな」
「なるほど、それを互いに繰り返すのね」
「流石、詩人。ものわかりがいいな」
「いや、詩人は関係ないでしょ。というか詩人じゃないし」
「でもルールはなんとなく分かったろう? さあ、やってみようぜ」
「オーケー」
「軽っ!! ……お前、ホント意外なところでノリがいいよな」
「融通が効くのよ。詩人だから」
「それこそ詩人菅家ないだろ。まあいい、やろう」
「お先にどうぞ」
「了解。じゃあリズムに乗るぞ」
二人は小刻みに体を揺らし始めた。
「……これ必要なの?」
プラが尋ねた。
「いや必要ない」
チナが答えた。
「ないんかい!」
「雰囲気だよ雰囲気。それじゃあ行くぞ。リンゴ、リンゴ、リンゴと言ったら?」
「青い。青いと言ったら?」
「空。空と言っ……ちょい待ち」
「はい、アウトー」
「いやいやノーカンノーカン。ちょっと待てって」
「何よ、物言い? 往生際が悪いわね」
「だって青はおかしいだろ青は」
「なんで?」
「この世のどこに青い色をしたリンゴがあるというのだ」
「あんたまさか、青リンゴを知らないの?」
「いや、青リンゴは緑色だろ」
「じゃあなんで緑リンゴじゃなくて青リンゴっていうのよ?」
「え?」
「は?」
「……」
「……」
「……何かこの世の真理に触れてしまった気がする」
「いや、そんな大それたものではないでしょうよ」
「と、とにかく。ひねくれずにそこ「赤い」とか気の効いたワードで繋げてくれよ」
「いやよ。なんで、ゲームの対戦相手に気を使わないといけないのよ」
「そりゃ、少しでもゲームを長引かせることが、このゲームを堪能することになるからだ」
「悪いわね。私はこう見えても短期決戦タイプなのよね」
「何がどう見えてなのだ。というか短気の間違いじゃないのか」
「あ? 何か言った?」
「ほら見たことか。気がアタシのまつげ並みに短いではないか」
「いや、知らないわよ。あんたのまつげが平均より長いか短いかなんて」
「……なるほど、そりゃそうか」
「何よ?」
「いや、物事の特徴なんてものは、その人その人によって捉え方は様々だ。絶対なんてものはそこには存在しないのだなと思ってな」
「……いいけどその言葉、このゲームを根本から否定しているわよ」
「あ」
二人の間を冷ややかな風が通り過ぎた。