カエルに出会って
「あっ、カエル」
池のそばを歩くチナが言った。
「は? どこへよ? 土?」
隣を歩くプラが尋ねた。
「違う違う、そっちの帰るじゃない。あと、土にとはなんだ。勝手に私の一生の幕をおろすんじゃない」
「悪かったわね。で、どの「かえる」?」
「緑の奴の方だよ」
「あら、緑とは限らないわよわよ」
「屁理屈を並べるでない」
「ごめんあそばせ。そこのカエルのことね」
「気づいていたのか。相も変わらずひねくれ者だな」
「お褒めの言葉をどうも」
「誉めてないぞ。まったく、見てみろカエルも呆れているじゃないか」
「あら? あなたカエルの表情なんて読み取れるの?」
「ああ」
「言ったわね」
「あっ、やっばなし。ウソウソ読み取れない」
「光の速さで撤回したわね」
「なんと、遂にアタシは光に追い付いたのか」
「よかったじゃない。おめでとう」
「ありがとう! ……じゃないだろ!」
「ナイスノリツッコミ。で、なんなのよ」
「ん? そりゃあお前……何だっけ?」
「記憶喪失ですか」
「そのようだな。あっ、カエルが跳ねたぞ」
「え、ホント!? ……見逃した」
「……急にすごい食い付き様だな。もしやカエルマニア?」
「いや全然」
「じゃあ、何で?」
「いやだって、カエルが跳ねる場面なんて、中々見れるものじゃないでしょ?」
「確かに、言われてみれば。こいつは見れたアタシはついてるな」
「むしろ今ので運を使い果たしちゃったんじゃないの?」
「なんという逆転の発想! 流石はひねくれ者だな」
「見事なもんでしょ。さ、分かったなら不運に気を付けながら先へ進みましょう」
「え? おいおい、正気か?」
「ええ、あんたよりわね」
「うぉい!」
「何よ?」
「せっかくカエル殿にお会いしたというのに、もうこの場を立ち去ろうと言うのかね、君は?」
「カエル殿って……カエルに会ったからなんなのよ?」
「何って、それはアレしかないだろう」
「アレとは?」
「カエルの合唱」
「……あんた正気?」
「うん」
「わぉ、なんて綺麗な二文字返事だこと」
「だろ? 着地までぬかりないよ」
「何の演舞の採点よ。で、カエルに合唱なんてどうさせるのよ?」
「さあ」
「これまた見事な二文字返事ね」
「二度あることは」
「三度目は勘弁願いたいわね」
「ごもっとも。そうだな、歌ってもらいたいなら、まずはそれなりの誠意を見せないとな」
「誠意とは?」
「こちらから歌を歌うんだ」
「……もう、勝手にしてちょうだい」
「分かった。すーっ……ウーラーラーラー!」
チナは歌い出した。
「……どこの民族の歌よそれ」
すると、カエルもチナの後に続いて、一緒に鳴き出した。
「ウーラーラーラー!」
「ゲコゲコー!」
「……先に行くわね」
池の周りに、しばらく風変わりな協奏曲が鳴り響いた。