カードゲームにて
「……暇だな」
「……暇ね」
チナとプラが言った。
野宿中の二人は夕食を終え、いかんともしがたい暇に襲われていた。
「なあ、昨日の暇を1ヒマとすると、今日は何ヒマぐらいだ?」
「さあ、おんなじぐらいじゃない?」
「そう……」
「……」
「……」
「……トランプやろうぜ」
「……いいわよ」
二人は起き上がった。
「あちゃーこの前、川に落ちた時のせいで、カードが曲がっちまってるな」
「そんぐらい平気でしょ。それよりも、よ」
「ん、何だ?」
「何のゲームをする気? ポーカー? ババ抜き?」
「は? なんだそれは?」
プラは頭を抱えた。
「あんたねぇ、言い出しっぺがそんなんでどうすんのよ。逆にあんたが知ってるトランプのゲームって何?」
「悪いな、こう見えてトランプはほとんど触ったことないんだよ。ゲームの種類も全く知らん!」
「どう見えてなのかわからないけど、お互い共通して知ってるゲームがないんじゃ、トランプのしようがないじゃない」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」
「ふむぅ、だったら話しは簡単だ、ないなら作ればいい!」
「は?」
「だから、今から作っちまうんだよ、新しいトランプのゲームをさ」
「……心意気は買うけど、あんたにそんな器用な真似、できるのかしら?」
「できるか、できないかはやってみないと分からんだろ」
「器用じゃないことは認めるのね」
「ああ」
「そう、じゃあ頼んだわよ」
「おう、任しとけ」
それから数分後。
「おい、プラ。できたぜ、究極のゲームが」
「ご苦労様。して、その内容は?」
「ふふふ、ルールは簡単! まず、シャッフルしたカードのたばから表を見ないで、各々カードを一枚選び出す。そして、その選んだカードを同時に裏返し、そこに書かれている数字が大きい方が勝者と言うわけだ」
「……」
「どうした、驚きのあまり声もでないか」
「ええ、びっくりだわ。いまだかつて、ここまで「ルールは簡単!」の謳い文句がぴったりはまるゲームもなかったわよ」
「そいつは褒め言葉か?」
「それは受け取り手の感性に委ねるわ」
「そいつはどうも。では早速、テストプレイを兼ねた実戦と行こう」
「ちょい待ち! あんた何か大切なこと忘れてない?」
「忘れ物だと? なんだそれは?」
「勝者への特典よ。せっかく勝負を行うんだもの。その激闘を制した者にはそれなりの褒美が与えられてしかるべきはずよ」
「そいつはごもっとも。して、その褒美とやらは何にする?」
「昼間買ったアップルパイがあるでしょ。この戦いの勝者はそれを丸々一個、胃袋に取り込む権利を得るというのはどう?」
「な、なんと! そいつはいい! 俄然やる気がでるってものだ!」
「決まりね。それじゃ、勝負を始めましょう」
「ああ!」
チナはそう言うとカードをシャッフルし、それを二人の間に置いた。
「よし、勝負開始だ! そちらからどうぞ」
「了解。そうねぇ……これにするわ」
「アタシは……これにしよう」
二人は各々、カードを一枚手に取った。
「それじゃあオープンと行きましょうか」
「……ごくり」
「せーの……」
「オープン!」
二人は同時に手にしたカードを裏返した。
「え?」
「はえ?」
二人は絶句した。
プラのカードはダイヤの5。かたやチナのカードはクローバーの5だった。
「……」
「……」
「……開発者のチナ氏。この場合、勝利の女神が微笑んだのはどちらかしら?」
「……おそらく、女神はこう言っているのだろう。争いなど無益。両者にとっての最善は互いの手と手を取り合うことであると、な」
「……都合のいい。ま、でも嫌いじゃないわ」
その後二人は仲良く、二つに分けたアップルパイに舌つづみを打った。