貝殻を拾って
「ん? 何だこのゴミは?」
浜辺を歩くチナが言った。
「ゴミ? ……いやいやこれはどう見てもアレでしょ」
隣を歩くプラが言った。
「貝殻だろ」
「……知ってるんじゃないのよ。何でとぼけたフリしたのよ?」
「たまには面白いかなと思ってな」
「ごめん。死ぬほどつまらなかったわ」
「生きてるじゃん」
「あらホント。じゃあ面白かったってことかしら?」
「さぁな。で、こいつをどうするよ?」
チナは足元の貝殻を拾い上げた。
「……どうするって、別にそのまま置いておけばいいんじゃないの?」
プラが言った。
「おいおい、それこそ死ぬほどつまらないぞ」
「生きてるじゃない」
「おう、そうだな。じゃ、なくてだな」
「何よ?」
「こんな面白そうな物を拾っておいて、何もしないとはどういう了見だ!」
「いや、拾ったのあんただし。それに別に貝殻なんて面白くもなんともないわよ」
「そんなことないさ。見てみろよこの綺麗な見た目! そして! ……なんだ?」
「もう尽きた!? 早すぎでしょうよ、もうちょっと頑張りなさいよ」
「無力でかたじけない。だが、綺麗なのは事実だろ」
「まあ、それはそうだけど。綺麗なだけじゃ面白くないわよ」
「そうか。なら……そうだな、ペイントしてみるか?」
「ペイント?」
「そうさ。確かにこの貝殻は綺麗だが、何の模様もないからつまらないのだと思ってな」
「模様って……あんたに芸術の才能なんてあるの?」
「才能はあるないじゃない、見つけるか見つけないかだ」
「お、おう。ん? なんか深いこと言ってるようで言ってないような」
「まあ、そんなことはどっちでもいいだろ。なせばなるのさ何ごとも。というわけで筆とインクを貸してくれ」
「は? ないわよそんなの」
「あるないじゃない見つけるか見つけ……」
「だからややこしいことを言うんじゃないわよ」
「ちぇ、ないのか。それはつまらないな」
「つまらなくて悪かったわね。というか、せっかくの綺麗な貝殻にインクを落とすなんて、不粋じゃなくって?」
「……確かに。そのもの本来の美しさを失いかけないな。浅はかな考えであった、謝罪する」
「大袈裟ね。別に何かを美しく彩りたいという思いは純粋に素敵だと思うわよ」
「素敵、ね。そういってもらえると気がほぐれるな」
「ほぐれる、ね。そういうことなら、もっといい方法があるわよ」
「ん? なんだ?」
「ふふ。こうするのよ」
そう言うと、プラは貝殻を握るチナの手を取って、それを彼女の耳元に当てた。
「こ、この音は!?」
「ね、素敵でしょ?」
「ああ……だが」
「何よ?」
「……どうせなら、誰かと一緒に聞きたいな」
チナが笑顔でそう言った。
「……まったく、わがままね」
プラも笑顔で答えた。
そして二人はしばらく、波打際のレコードを堪能した。