石の上にて
「さぁて、そろそろ休憩にするか」
林道を歩くチナが言った。
「そうね。もう足が棒になっちゃったわよ」
隣を歩くプラが足をさすりながら言った。
「棒ね。どうやらお前の足は大根役者のようだな」
「誰の足が大根よ。三枚におろすわよ」
「大根だけに、か? ちょうどいい、大根おろしでも食べたい気分だったんだ」
「おあいにく様。ここには大根もおろし器もないわよ」
「そりゃ、残念。まあ、ここは水で我慢するとしよう」
そう言うと、チナは水筒を手に、近くの小石に腰かけた。
「あっ、カウントスタートね」
プラが言った。
「は? カウント? 何のだ?」
そう尋ねながらチナは小石から立ち上がった。
「はい、三秒と」
プラが言った。
「……まさか、石の上にどれだけいられるか、というカウントか?」
「ええ、そうよ」
「これぞ摩訶不思議。なぜ、そのような古代文明の謎よりも不可解なカウントをするのだ?」
「なぜって? 私が長年、気になって止まない、石の上に人間が三年もいられるかという疑問、その答えを導き出す為よ」
「……今の瞬間、アタシの中にもひとつの疑問が生まれたよ。なぜ、お前はそんな下らない疑問に長年もとらわれているのか、という疑問がな」
「私が何に疑心を抱こうが私の自由よ。それより、今はあんたのその疑問より、私の疑問の方が優先よ」
「天は人の上に人をつくらず。優劣をつけようとするのは、自分が劣等種だと自白しているのと同じだ」
「あんたも結局、優劣つけているじゃないのよ」
「おっと、痛いところを疲れたな。優秀な奴だ」
「お褒めの言葉、ありがとう。でも、私は人の上に立つより、人が石の上にどれだけの時間いられるか、に興味があるのよ」
「そんなに気になるなら、アタシでなく自分で試せばいいじゃないか」
「……それはそうね。盲点だったわ」
「……日頃から、人使いが荒い故の見落としだな。分かったら場所を交代しよう」
「そうね」
二人は居場所を交換した。
「……それでは行きましょうか。カウント……スタート!」
掛け声と共に、プラは石の上に腰かけた。
「……」
「……」
「……どうよ?」
チナが尋ねた。
「ん? 別になんともな……あっ!」
「どうした?」
「ちょっと。話かけるから時間が分からなくなっちゃたじゃないのよ」
「え、ああ。そりゃすまん」
「……」
「……」
その10分後、プラは尻が痛いと言って、石の上から立ち上がった。