ヌンチャクを手に入れて
「オチョー!」
森を歩くチナが突如、奇声を上げた。
「……かわいそうに。ついにおかしくなってしまったのね」
隣を歩くプラが言った。
「うぉい! 違う違う! アタシは至って正常だ!」
「そうよね。あんたは異常が正常だものね」
「ひどく失礼な認識してるな。じゃなくて、これだよこれ」
そう言うとチナは手にしていた物をプラの前に差し出した。
「何これ? 鎖付きののり巻き?」
プラは目の前の物体を見て言った。
「そうそう、美味しいのり巻き二つがセットになってるお得品! ……なわけないだろ! どこの世界に鎖の付いたのり巻きがあるんだ!」
「のりだけにノリツッコミどうも。また変なモン買ったってわけね」
「変なモンじゃない! ネンチャクだ!」
「ヌンチャクね。そんなベトベトした物じゃないから」
「おっとそうだったな。まあ、こいつを手に入れたらやる事はひとつだろ?」
「は? やる事?」
「そう……これだよ! オチョー!」
チナはヌンチャクを振り回した後にポーズをキめた。
「……んーと」
プラは首を傾げた。
「どうした?」
「……取り敢えず、掛け声がおかしいわね。オチョーじゃなくて、アチョーでしょ」
「え!? そうなの!? ……やっべぇ、すげえ恥ずかしいじゃん、アタシ」
「青空の下で奇声上げてる時点で恥ずかしいも何もないと思うけど」
「奇声言うな! これはあれだよ!」
「何よ?」
「だから……あれだよ……なんかあの」
「全然、出てこない! 冬眠している動物並みに出てこないわね!」
「う、うるさいなぁ。とにかくネンチャクを扱う上でこの奇声は欠かせないの!」
「だからヌンチャクね。あと、自分で奇声って言ってるし」
「まあ、細かいことはいいじゃないか。取り敢えず、アタシの気が済むまで、この一連の動作をやらしてくれ」
「はぁ、まあ別にいいですけど」
「ありがとさん! それじゃあ……行くぜ!」
「……」
それから数分間、チナはオチョーと叫びながら、ポーズをキめ続けた。
「はぁ、はぁ……こんなんもんか」
チナが息を切らしながら言った。
「……」
その姿をプラは無言で見つめていた。
「ん? どうした? お前もやりたいのか?」
「いや、遠慮しとくけど」
「なんだつまらん。こんなに楽しいのに」
「……あのねぇ、あんた少しはこっちの身にもなってみなさいよ」
「ん? お前の身?」
「そうよ。数分間、隣でイカれた動きを見せつけられたのよ。もう、三日間歩き続けていたくらいの疲労感よ」
「そ、そうなのか? それは済まなかった」
「はぁ、済まなかったんならさあ、今後は……」
「一緒にやる、か?」
そう言うと、チナはヌンチャクの鎖を引きちぎり、片方の棍の部分をプラに渡した。
「……まったく、しょうがないわね」
プラはその片方の棍を受け取った。
そして、しばらく森中に奇声のデュエットが響き渡った。