井戸を見つけて
「あー、喉乾いた」
林道を歩くチナが言った。
「あっ、そう」
隣を歩くプラが言った。
「……ドライだな。今のアタシの喉の何倍もドライだな」
「そう? ドライな関係ってのも嫌いじゃないわよ」
「確かに良好な関係にはどこか乾いた面も必要だ。だが、それは今のアタシには全く関係ない」
「あら、自己中心的なのね。心まで乾いてしまったのかしら?」
「この際、心の方はどうでもいい。この物理的な乾きをどうにかしたくて山々だよ」
「昼食時に、手を滑らせて水筒の中身を大地にプレゼントしたのはどこの誰だったかしら?」
「うぐっ! ……あれは不慮の事故だ。そんな根掘り葉掘り、ほじくりかえさないでくれ」
「その掘った根から水分を頂きたいぐらいよ。おかげで、私の水やりまでおあずけよ」
「わ、悪かったって。次の町まで我慢するよ」
「それが懸命よ」
「はぁ、ミイラになるのも時間の問題だな」
「……残念ながら、それは叶いそうもないわよ」
そう言うとプラは立ち止まった。
「残念がるなよ! ……って、こいつは?」
同じく立ち止まったチナは首を傾げた。
二人の目の前には、古びた井戸が置かれていた。
「井……なんかのオブジェかしら?」
プラが言った。
「おい、今、正解言おうとしてあえて外しただろ」
チナが言った。
「バレてちゃ世話ないわね。せっかくユーモアを効かせようとしたのに」
「ユーモアじゃ喉の乾きは飢えないよ。で、この井……オブジェは何だ?」
「何であんたも外すのよ! ……まあ、確かにこんなひと気のない場所にあるのは変よね」
「変でも不変でも何でもいいさ。中に水さえあれば、な」
チナは井戸を覗き込んだ。
「気をつけなさい。落ちたらザ・エンドよ」
「ジ・エンドな……これは……カラだな」
「ふぅん、そう」
「……他人事だと思ってからに。畜生、せっかく水にありつけると思ったのに」
「これじゃあミイラ一直線線ね。どの道、あんたはジ・エンドね」
「ザ・エンドな……あっ、違うか。じゃなくて、お前はアタシがカラカラの干物になってもいいと言うのか?」
「そんなの……よくないに決まってるじゃないのよ」
「プラ……」
「ミイラ担いで旅なんてしてたら、疲れ果ててこっちまでミイラになってしまうわ」
「さしずめミイラ担ぎがミイラに、って感じだな。ってコラ! そういう理由じゃないだろ!」
「分かってるわよ。あんたがいない旅なんて、ミイラになってかんおけに収まっているより退屈よ」
「お前……ホントにそう言うこと、恥ずかし気もなくさらっと言うよな」
「う、うるさいわね! なんなら、水を採るために次の町まで全力疾走したっていいのよ」
「おい! アタシをミイラにしたいのかしたくないのか、どっち何だよ!」
などと言い合いをしている内に、二人は無事、次の町に到着した。