氷の塊を手に入れて
「……実は、今日はお前に対して重大発表がある」
神妙な面持ちのチナが言った。
「また、私に黙ってなんか買ったんでしょ?」
プラが言った。
「……」
「……えっ! 違うの?」
「いや、そうだけど」
「そうなのかよ! 何で、ちょっと間を置いたのよ!」
「いや、だってあんまりにもあっさり当ててしまうものだから、こちらもひるんでしまったよ」
「今朝のみそ汁並みにあっさりで悪かったわね。あんたの言いそうなことくらい、簡単に分かるわ」
「なんと! 貴様、さてはサトリと言うもののけの類いだな」
「誰がもののけよ! ……で、そのカトリとは何かしら?」
「線香じゃない! サトリだ! 人の心を読むことができる妖怪のことだ」
「ふーん。要するに雑学ね。ホントどうでもいいことばかり知ってるわね」
「ふん、負け惜しみだな。過去に妖怪大百科を穴があくほど読んだ私に、その分野に関しての死角はない」
「本に穴を開ける奴の方がよっぽど化け物よ。で、妖怪、無断購入さんは何を買ったのかしら?」
「アタシを新種の妖怪扱いするな! ……まあいい、見せてやる。とくと驚け!」
そう言うとチナは、ふところからひとつの氷の塊を取り出した。
「それってまさか!」
プラは驚愕した。
「ふふふ。そう、これは氷の塊だ!」
チナが得意気に言った。
「……そのまんまね」
「ああ。そのまんまだ」
「って、ネーミングはどうでもいいわ。何でそんな水を固めただけの物を、わざわざカネと引き換えに手に入れたのかしら?」
「特に深い理由はないさ。なんか綺麗だったから買ったんだ」
「足湯並みに浅い理由ね。またお財布が寒くなっ……へっくしゅ!」
「どうした? 風邪か?」
「うう……別に平気……へっくしゅ!」
「おいおい、どことなく顔も赤いぜ? 熱でも……あるな」
チナがプラの額に手を当てながら言った。
「……どうやら、寒く感じたのはお財布ではなく私の体の方だったみたいね」
「強がってる場合かよ。ほら、病人はとっとと横になりなさいな」
「むぅ……仕方ないわね。そうさせてもらうわ」
そう言うとプラは木のそばて横になり、しばらくして眠りに落ちた。
「んー……うん?」
「お? お目覚めか、プラ」
プラの顔を覗き込んだチナが言った。
「ええ、お早う……ってこの氷は?」
プラの額の上にはほとんど溶けてしまった氷の塊が置かれていた。
「チナ、あんたこれって……」
プラが氷の塊も手にしていった。
「別に。ただの水を固めただけのものだよ」
チナが笑顔で言った。
「……ふふ! ありがとう、チナ」
「どういたしまして、プラ」
二人は水に帰った恩人に感謝を告げ、再び歩き出した。




