編み物にて
「あー食った食った、ごちそうさん」
夕食を食べ終えたチナが言った。
「お粗末さまでした」
プラが言った。
「ふわぁ、食べたら眠くなるのが人のサガだな」
「ちょっと、食べてすぐ寝ると牛になるわよ」
「牛ねぇ、そういう生き方も悪くないな」
「あんたはよくても私は困るのよ。牛連れて旅なんてごめんだわ」
「旅は道連れ、世は情けっていうだろ?」
「牛になるような情けない奴はお断りよ」
「まったく情けのないやつだな。ところでさっきから何をやってるんだ?」
「見て分からない? 編み物よ」
「おっ、編み物か。こう見えてもアタシ、得意なんだぜ」
「ホントぉ? その腕前、見せてもらおうじゃないの」
「いいだろう、貸してみ」
そう言うと、チナは見るも鮮やかな手さばきで編み物を編み始めた。
「……ちょっと待ちなさい」
「何だよ?」
「何ホントに得意なのよ。明らかに「下手じゃないの!」ってツッコむ流れだったじゃないのよ」
「そんな流れは知らん」
「冗談じゃないわ、これじゃあ女子力担当の私の立つ瀬がないじゃないのよ」
「……さらっとアタシが女子力ない奴ってことにするなよ」
「ふん。料理のひとつも作れない奴がよく言うわ」
「アタシだって、料理のひとつぐらいつくれる」
「どうせ、卵かけご飯でしょ」
「いや、卵敷きご飯だ」
「は? 卵式? 何かの流派か何か?」
「そっちの式ではないよ。なんだその割れやすそうな貧弱な流派は」
「柔よく剛を制す。硬さだけが強さじゃないわ」
「なるほど、一理ある。となると、さしずめ卵式の好敵手はフランスパン式と言ったところか」
「嘆かわしいことね。両者が手を取り合えば、いささか美味なブレックファーストになったでしょうに」
「確かに。しかし、このような話をしていると、腹が減ってくるのが人のサガだな」
「いや、今、夕食食べたばっかでしょ」
「おっと、そうであったな。卵かけフランスパンは朝食までお預けか」
「……いささか調理方がおかしい気がするのだけど。まあ、忙しい朝にはそれくらいシンプルで簡単なものがいいのかもね」
「忙しい? 聞き捨てならないな。アタシ達の朝ははたして忙しいか?」
「うっ……痛いところ突いてくるわね」
「痛いのはこってる証拠だ。どれ、肩のひとつでも揉んでやろう」
「遠慮するわ。今、編み物の最中だもの」
「そうであったな。では、これをお返しするとしよう」
チナはプラに編み物を返した。
「……なんか気が削がれたわ。やっぱり、編み物は止めよ」
「そう言うな、上手く縫うコツ、教えるからさ」
「……えらそうに」
その後二人は協力して、一本のマフラーを縫い上げた。