見事な剣を手に入れて
「見ろよ、プラ。この剣、アタシの美貌に負けずとも劣らない美しさだぞ」
チナが握りしめた剣をかかげながら言った。
「あら素敵。けど、あんたが持っていても猫に小判ね」
隣を歩くプラが言った。
「誰が猫だ、せめて馬の耳に念仏と言ってもらおうか」
「豚に真珠」
「コラ!」
「冗談、冗談。いくらなんでも豚は言いすぎたわ。で、どうしたのその剣?」
「さっき寄った街の市場の福引で当てたんだ。一等だぞ、一等」
「すごいじゃない? 運の使い過ぎで、今日死んだりしないといいわね」
「そうなんだよ、それだけが気がかりで気がかりで……ってそうじゃなくてだな!」
「そうじゃないならどうなのよ?」
「一等がこんな訳の分からない剣なんだぞ。これじゃあまともに喜べやしない。もっと、万人が貰って嬉しいものを景品にするべきじゃないか?」
「そんなの私に言われても困るわ。店に直接言いなさいよ」
「やだよ、恥ずかしい」
「はぁ、小心者ね」
「ああ。体はでっかく、心は小さくがアタシの信条だからな」
「なによそれ。第一、体も大して大きくないでしょ。全身ミニマム人間よあなたは」
「なんだそりゃ?」
「こっちの台詞よ」
などと会話をする二人の目の前に、突如、犬の姿をした魔物が飛び出してきた。
「うぎゃっ!? 魔物だ!」
そう言うとチナはプラの背後に隠れた。
「ちょっと、それがそんな立派な剣を持っている人がとる行動? 剣を使う絶好のチャンスじゃない」
「お言葉ですが、アタくしに剣術の心得はありません! 何卒、ご容赦を!」
「まったく、このまま仲良く犬の餌になるのは御免ね。その剣、使わせてもらうわよ」
そう言うとプラはチナから剣を受け取ると、魔物に向かって構えた。
すると、剣の刀身に大きな炎がともった。
「何よこれ!?」
「すげぇ、かっけぇ! 炎の剣だ! そいつでやっちまえ、プラ!」
「ええ、言われなくてもそのつも……あっつ! あっつ!」
プラは剣を投げ捨てた。
ついでにその炎にひるんだ魔物は二人の前から姿を消した。
「おいおい、何してんだよ」
「見りゃわかるでしょうよ! 剣が熱くて持っていられなかったのよ!」
「なんだそりゃ? かっこつかねぇな」
「うるさいわね。魔物は追っ払ったんだし、結界オーライよ」
「やれやれ。しかし、そうなるとこの剣、アタシらにとってはお荷物でしかないな」
「おまけにいつ発火するかも分からない危険物ときたわ。これじゃあ、売り払うのも無理そうね」
「うーん、発火する剣か……あ、そうだ」
「何よその顔、またよからぬことでも思いついたの?」
「へへへ、まあね」
「あらまぁ、こりゃ便利。グッドアイデアよ、チナ」
「ほめても、気持ちの悪い笑い声以外はなにもでないぜ」
二人は先ほどの剣を火元にして、串に刺した芋を焼いていた。
「そろそろね、いただきまーす……ん、美味しい!」
「マジか! どれどれ……おっ、これは!」
「ねぇ、いけるでしょ。剣の炎で焼く芋なんてどんなものかとおもったけど、存外、問題なかったわね」
「ああ、むしろ普通の炎で焼くより、おいしく感じるな!」
「……」
「……」
「……それはない」
「……ああ、アタシもそう思う」
この日より、炎の剣は調理器具としての第二の人生を歩み始めた。