仮面を着けて
「どうよこれ?」
チナが言った。
彼女の顔には仮面が取り付けられていた。
「……どこのゴミ捨て場から拾ってきたの?」
プラが尋ねた。
「ゴミ扱いは心外だな。さっきの町の露店商から買ったんだ。割りと高かったがな」
「まーた無駄遣いして。今夜は飯抜きね」
「そりゃあんまりだ。この顔に免じて勘弁してくれ!」
「……肝心のその顔が見えないのだけど」
「おっとそうだった……これでいいか?」
仮面を外したチナが言った。
「……あからさまに不便そうなんだけど。なんでそんなもの買ったわけ?」
プラが尋ねた。
「深い理由はないよ。ただかっこよさげだから買ったんだ」
「ほんとに深くない理由ね。仮面なんて着けてても、前が見えにくくなるばかりで、いいことなんてないと思うけど」
「そんなことはない、仮面があれば本来の自分を隠して別人になれるだろ。いつもの自分では不可能なことも可能にできるようになるのさ」
「常日頃から厚顔無恥なあんたにできないことなんてないでしょ」
「それ、誉めてるのか?」
「ある意味、ね」
「……素直に喜べないな」
「ぜひとも喜んでちょうだい。あんたのそのワニ並に厚いのツラの皮。時々羨ましく思うのだもの」
「羨ましい? 何故だ?」
「だって、そんなに恥知らずなら、悩みの種も朽ち果ててることでしょ?」
「相も変わらず失礼な奴だ。アタシにだって悩みのひとつやふたつ存在している」
「え!」
「うわっ、すごい驚愕したな。そこ、驚くとこじゃないだろ」
「……失礼、私としたことが、大声出してはしたなかったわね」
「まったくだ。アタシじゃないんだから」
「自分が厚顔無恥なことは認めるのね」
「彼を知り己を知れば百戦あやうからずだからな」
「何と戦っているのよ?」
「昨日の自分自身」
「わぁ、ストイック。ふざけた仮面着けてる奴の台詞とは思えないわね」
「別にふざけてはいないだろ。今世紀最大にいかしてるの間違いだ」
「ふーん。ま、何でもいいけど足元には気を付けなさいよ」
「おい! なんだその冷めた反応……うわっ!」
チナは石につまずいてその場に転んだ。
「ほら、言わんこっちゃない。大丈夫?」
「あ、ああ。仮面のおかげで顔を打たずにすんだ。買って正解だったぜ」
「いや、その仮面のせいで転んだんじゃないのよ」
「……返す言葉もない」
チナは紅潮した顔を仮面で隠した。