働き者に出会って
「うへあぁ、疲れた。休憩にしようぜ」
チナが言った。
「だらしないわね、まださっきの街からさほど歩いてないわよ」
プラが言った。
「疲れたものはしょうがないだろ。そうだ、おにぎり一個食っちまおう」
「まだ昼前よ、食事には早いんじゃない?」
「一個だけ一個だけ、いただきま……ん?」
「どうしたの?」
「いやあ、アリの行列だよ」
チナが足元を指差して言った。
「あらホント。あんたと違って働き者ね」
「おいおいやめてくれよ、アタシがキリギリスだとでも言いたいのか?」
「今のあんたにはうってつけの配役だと思うけど」
「手厳しいな。あいにくと、ヴァイオリンは持ち合わせていなくてね。アタシにその役には不相応さ」
「あんたヴァイオリンなんて弾けるの?」
「いいや」
「……キリギリスの方が演奏の腕がある分食って行けそうね」
「うっ、悪うごさんしたね。昆虫以下の存在で」
「そこまでは言ってないでしょうよ。ま、この状況じゃアリ達の方がご立派なことに変わりはないけれど」
「それは今、この瞬間の彼らとアタシを比較した場合のことだろ? アリ達だって何千里という距離、大地を踏み続けていれば、疲れるに決まっている」
「……あんた、千里も歩いてないけどね」
「ん? すまない、耳詰まりのせいで今の言葉、聞き取れなかった」
「何よそれ? 鼻詰まりの親戚かなにか? 初耳なんだけどその言葉」
「それはよかったな。お前の頭の辞書の「ミミヅク」の項の次に書き加えておけ」
「ミミズクでしょ」
「そうだな。アタシも今、自分で言ってておかしいと思った」
「おかしいのは都合よく詰まるあんたの耳の方よ」
「鼻も詰まるぞ」
「もう医者に行った方がいいわよ、あんた」
「腹八分目に医者要らず。おにぎり一個ぐらい平気だろ」
「どうせ、二個三個と食うんでしょ」
「よく分かったな。お主いつから未来予知を?」
「たった今から。今日からエスパー、よろしくね」
「うさんな奴だ。なぁ、アリさん方?」
チナは足元のアリの行列に視線を落とした。
「……」
「どうしたの?」
プラが尋ねた。
「……いや、やっぱり休憩はもう少し歩いてからにしよう」
「あら、どうして?」
「別に。キリギリスにはなりたくない、そう思っただけさ」
「そう、私はキリギリスみたいな生き方も嫌いじゃないけどね」
「なんだよそれ。ま、お前らしいか」
二人は小さな働き者達に手を振って歩き出した。