大樹に出会って
「随分と巨大な樹だな」
チナが言った。彼女の目の前には青空を突き抜ける程に巨大な樹木が立っている。
「ええ。まるで私の器のようね」
チナの隣に立つプラが言った。
「ああ」
「……ええ!?」
「ん? どうした?」
「いや、今の完全にジョークだったんだけど」
「そうなのか?」
「そうよ。今のはツッコむところでしょうが。ツッコミが不在じゃ、せっかくの爆笑ギャグが摩擦ゼロの宴会芸レベルに降格してしまうじゃないの」
「いや、すまん。お前の器が大きいのは事実だと思ってたからさ」
「……え?」
「だって、 こんなとるにたらないアタシみたいな奴と一緒にいてくれるんだ。そんなことできる奴の器が小さい訳がないさ」
「……チナ」
「へへへ。ちょっと臭かったかな?」
「……別に。あんたの靴下ほどじゃないわよ」
「うぉい!」
「ふふ、冗談よ。でも、ありがとうね。これは本当」
「ははは、そりゃこっちの台詞だよ。ありがとうな、プラ。まさにアリが十匹って奴だ!」
「……台無しね」
「え?」
「気づいてないならいいわ。知らぬが仏。世の中には知らない方がいいこともあるものよ」
「それはそうだな。たった今アタシはまさにそれを思いしったよ」
「どういうこと?」
「いいか、アタシは今……腹が減っているってことを知ってしまったんだよ!」
「ふーん。じゃあ、そこの木の実でも食べてれば?」
「アタシは森の中のかわいいリスさんか!」
「かわいいは余計よ」
「森の中は?」
「……そこはどうでもいいけど」
「それはどうでもよくても、この空腹はどうでもよくない。ああ、なぜ人は腹が減るのだろうか」
「なぜって……生きてるからでしょう」
「プラ……」
「ふふん」
「……臭いな。今の台詞、アタシの靴下並に臭いぞ」
「……あんたの靴下が臭くないことを祈るわ」
「祈るって何によ?」
「そうね……この大樹にでも祈ろうかしら」
「ああ、大樹。すっかり忘れてた」
「いやいや、あんたが大樹の話を切り出したんでしょうが」
「きっと、話が脱線しすぎたせいだな。腹が減っただの、靴下だの」
「……靴下はそこまで関係ないと思うけど」
「これを教訓に、今後は話が脱線しないように心がけよう。このまっすぐな大樹のように、な」
「なーに、綺麗に締めた気になってんのよ」
「不服か?」
「……別に、嫌いじゃないわ」
「なら、いいじゃないか」
「そうね。それじゃあもう行きましょうか。この大樹のように、どこまでも続く私達の道を、ね」
「……やっばり臭いな。でもまあいいか、無味無臭じゃつまらないからな、何事も」
二人は大樹に別れを告げて再び歩き出した。