食べ放題にて
「ふー、やっと町についたな」
チナが言った。
「もうくたくたね。ちょっと早いけど、宿屋に向かいましょうか」
プラが言った。
「そうだな。あっ!」
「わっ! 何?」
「……腹減ってたの忘れてた」
「……そのまま忘れていればよかったのに」
「そう冷たいこというなよ。宿屋に行く前に、あったかい飯でも食いに行こうぜ」
「そうめんとか?」
「いや、あったかいもんが食いたいな」
「冷やし中華とか?」
「どんだけアタシに冷たいもん食わせたいんだよ! 風邪ひいちまうぞ!」
「あんたは風邪ひかないでしょ」
「なぜならバカだか……おい!」
「今日もノリノリね。十分、肩暖まってるじゃないの」
「……肩以外も暖めたいところなんだけど」
「仕方ないわね。飯屋、探しに行きましょう」
「あざす! 何食おっかなー」
「激辛カレーとか?」
「……そいつは熱すぎるな」
「わがままね」
「限度だ! 限度!」
二人はその場から移動した。
「……おい、プラ」
「何よ、チナ?」
「この店のこの張り紙に書いてあることは、質の悪いジョークか何かか?」
二人の目の前にはとある飲食店がそびえ立ち、そこの壁に貼られた紙にはこう書かれていた。
本日、開店一周年記念につき、食べ放題!
「……あながち、ただのジョークとは思えないけど」
プラが答えた。
「でもよ、ここの文字をよく見てくれよ。いや、見るだけじゃだめだ。気持ちを込めて読み上げろ」
「……気持ちをこめるまでも、読み上げるまでもなく分かってるわよ。食べ放題、でしょ」
「……つまり」
「つまり?」
「タダ飯……食べ放題ってことじゃないか!」
「タダとは限らないわよ」
「え? そうなの?」
「うん」
「……」
「ちょっと! 急に真顔で黙りこまないでよ!」
「いや、アタシの気持ちになってみろよ。タダと思ってたものがタダじゃなかったんだぜ。天国から地獄だよ」
「あんたが天国に行けるとは思えないけどね」
「酷いこと言うぜ。お前も大概、地獄行きだな」
「それじゃあ仲良く地獄旅行ね」
「天国に行くにしろ、地獄に行くにしろ、今はこの空腹をどうかしたいよ」
「まあ、まだ料金制と決まった訳じゃないわ。もしかしたら死ぬほど気前のいい店で、マジにタダで食べ放題かもしれないわよ」
「そうだとしたら、この店は天国同然だな。入ってみようぜ」
二人はその店に入店した。
「……地獄だったな」
店から出て来たチナが言った。
「ええ。普通に料金制だったわね」
プラは手元の財布を見つめながら言った。
「入った手前、何も食わずに出るのも悪い気がして、結局、食べ放題頼んじまったな」
「ええ。しかも、あんまり美味しくなかったわね」
「ああ」
「……私達、人がよすぎるのかもね」
「……それなら、天国に行けそうだな」
「……そうね」
二人は地獄を後にした。