オノを拾って
「あー、何か面白いこと起きないかな」
林道を歩くチナが言った。
「あんたの顔より面白いものなんて、そうそうこの世に存在しないわよ」
隣を歩くプラが言った。
「……面白くない冗談言うじゃないか、やる気か?」
「冗談じゃないわ」
「ん? 今の冗談じゃないわ、は何が冗談じゃないんだ?」
「さて、何だったかしら」
「記憶喪失か。お気の毒に」
「そんな毒にも薬にもならない話はいいとして、あれは何かしら」
「ん?」
チナはプラの指さした方向に目をやった。そこには、地面に刃の突き刺さった一本のオノがあった。
「オーノー! あれはオノだぜ」
「ぐわぁあああ! 氷河期! 全生物の命の灯が消えるわ」
「……そんなに今の寒かった?」
「うん」
「即答。シンプルに傷つくな」
「何よ身から出たサビでしょうに」
「サビてるのはあのオノの方だろ? とりあえず見に行ってみようぜ」
二人はオノの元に近寄った。
「んー、特に面白くないな普通のオノだ」
「こんなところに刺さってる時点で普通には程遠いと思うけど」
「あっ、そう言えばオノと言えば、ひとつ面白い話を耳にしたことがあるぞ」
「唐突ね。どんな面白い話なの? あ、面白くなかったら罰ゲームね」
「……」
「……ああ、ごめん。罰ゲームはナシだから話してみて」
「いいだろう。あるとき、とある木こりが湖にオノを落としてしまってな……」
「ああ、湖から女神が出てきて」
「おい! ネタバレするな!」
「ネタバレではないでしょ。あと、ごめんその話知ってるわ」
「なんだ面白くないな。このままじゃ面白くないことの集中攻撃でアタシはどうにかなってしうぞ」
「いや、あんたデフォルトでどうにかなってるじゃないの」
「ははは、面白いこと言うじゃないか」
「よかったわね。面白いことが見つかって」
「いや、良くない! ……こうなったらこのオノを近くの湖に落とすしかないな」
「なぜそうなる」
「本当に湖に女神がいるか確かめるんだ。面白そうだろ?」
「あんたも堕ちたわね。ただの好奇心で湖にオノを不法投棄した挙げ句、女神の眠りを妨げようというなんて」
「……それはそうだな」
「よかった。踏み止まってくれたようね」
「ああ。ありがとう、プラ。おかげで人の道を踏み外さずにすんだよ」
「いや、とっくの昔に脱線してると思うけど」
「何か言ったか?」
「別に。もう一度言うほど面白いことじゃないわよ」
「ならいい。で、このオノはどうする?」
「次の町で専門店に引き取って貰いましょう……それに運がよければ……」
「よければ?」
「買い取り金が手に入るかもしれないわ」
「ははは! そりゃいい! 女神から金のオノを頂くより現実的だ!」
二人は邪悪な笑みを浮かべながら町へ向かった。
しかし、そのオノは一文にもならなかった。