宝箱前にて
「……見慣れない置き物だな。こりゃなんだ?」
「……それは今世紀最大の勘違いよ、チナ。これは置き物なんかじゃないわ」
洞窟を進むプラとチナの二人は足を止めていた。
それもそのはず、二人は謎の装飾の施された直方体状の物体に遭遇したからである。
「この四方八方、どこから視線を投げかけても置き物にしか見えないこれがそうでないだと? しからばこれはなんなんだ?」
「愚問も愚問ね。これはあんた以外の誰がどう見ても……宝箱よ!」
「……ふ、ふはは! これだから夢追い人は困る。宝箱などという夢みたいなものが、こんなへんぴな洞窟に置いてあるはずがないじゃないか」
「誰が夢追い人よ! こんなへんぴな場所だからこそ置いてあるんでしょうが。どこの誰が街中に宝箱なんて置くものですか」
「ふーん、そうかい。ならば確かめてみようじゃないか、どれどれ…」
「っ!? お待ち!」
物体に触れようとしたチナの手をプラがはたいた。
「あだだ! ちょっと、このアタシのスベスベお肌に何するんだ!」
「明らかにカサカサだったけど? じゃなくて、何勝手に開けようとしてるのよ!」
「だって、こいつは宝箱なんだろ? だったら開けて中身を取り出さなきゃ。でなきゃこいつはただのお洒落な箱だぜ」
「分かってないわね。せっかく目の前に宝箱という夢の具現化が転がっているんだもの、そいつを開ける前に、ここは一つ、財宝を手に入れたら何に使うかトークをしてみない?」
「何がせっかくなのか分からんが、使い道なんてひとつにきまってるだろ?」
「なによそれは?」
「貯金」
「……あーん、もう夢がないん! 夢がないんわ、チナちゃん! あんたはどうしてそう夢がないのかしら!」
「悪いかよ、夢なんざ眠ってる間に見るだけで十分さ」
「現実から夢を弾き出したら、残るのは虚無の世界だけよ。もっとこうあるでしょ? あれがほしいとか、美味しいもの食べたいとか」
「……ふむぅ、そういのは特に思いあたるフシがないな……もしかしたら、すでにアタシは今の日常に満足しているのかもしれない」
「その心は?」
「……プラ、お前との旅の日々がアタシの心を満たしてくれているんだ」
「……チナ、あんた」
「へ、へへ」
「……なんか、変な物でも食べたの?」
「……お、おほん! そ、そうだな、無意識の内に拾い食いをしていたのかもしれない」
「やめてよね、まがいなりにもあんた人間なんだから」
「まがいなりにもとはなんだ! れっきとした人間だ! それより、お前の財宝の使い道はなんなんだ?」
「ふーむ、そうねぇ……」
「……」
「……」
「……」
「……いざ聞かれると、これといって思い浮かばないわね」
「っかぁー! 不毛・ザ・不毛! これまでの時間を返せ!」
「さ、流石に謝罪をするわ。失った時間は返せないけど」
「謝罪も時間ももういいよ。それよりもそこの宝箱を開けさせてくれ」
「わかったわ、開けましょう」
「うし! そんじゃ、開けるぜ!」
チナの手により、箱は開かれた。
「……こ、これは」
「……な、なんと」
プラとチナは目を丸くした。箱の中身は空だった。
「……」
「……」
「……ねぇ、チナ?」
「……何さ?」
「……やっぱり、夢は眠ってる間に見るだけで十分のようね」
「……そんな悲しいこと言うなよ。現実から夢を弾き出したら、残るのは虚無の世界だけだぜ」
「……そうね……ありがとう」
二人は肩を落としながら洞窟をあとにした。