変わった虫を見つけて
「おい見ろよ。あそこの木、カブトムシがいるぜ」
チナが言った。二人は深い森の中を歩いていた。
「カブトムシ? どう見てもクワガタじゃないの」
プラが言った。
「はぁ? 何を言って……ん?」
チナはその木のそばに近寄った。
「……なんだこいつは、ハサミを持っているぞ」
チナが言った。
「なんだやっぱりクワガタじゃないのよ」
プラが言った。
「いや、ツノも持っているぞ」
「え?」
プラもその木に近寄った。
「……ほぉ、不思議なものがいるものね。ツノとハサミ、両方を所持しているとは」
プラが言った。
「まさに一石二鳥。否、一虫二剣……いや、三剣か?」
チナが言った。
「訳の分からん言葉遊びはそこまでよ。こっちまで頭が痛くなってくるわ」
「おっと気が利かなかったな。ただでさえ、クワカブトとの遭遇で動揺しているところで」
「クワカブト……いい線行ってる名前じゃない」
「そうか? 私はいまいちだと思うが」
「……よかれと思って持ち上げたら裏切られたわね。なによ自分から言っといて」
「まあ、名前などはどうでもいいじゃないか。肝心なのは、だ」
「何よ?」
「この御虫さんは、どれだけの強者なのかというところだ」
「はい?」
「考えてみろ。虫の王者とも言われるカブトムシとクワガタのハイブリッドだぞ。その強さたるや、並大抵の者ではないはずだ」
「……確かに、シンプルだけど理にかなった見解ね。あんたにしては珍しく」
「……一言多いぞ」
「あら失礼。それでその強さとやら、どうやって確認するつもり?」
「そりゃあ、実際に他の御虫さんと戦って頂くのが一番早いだろ」
「戦って頂くって……本人達には戦意はないのよ」
「そこが問題なんだよな。アタシたちの勝手極まりない都合で、彼らに戦って頂く訳にはいかない」
「……なら、手段はひとつね」
「ん、何だ?」
「ズバリ、代理戦よ」
「……説明よろしく」
「説明するまでもないわ。あんたがクワカブトの代理、私が他の虫の代理ということで勝負して、勝った方が真の虫の王者ということよ」
「地味に主旨が変わっているような気もしないが、その手しかなさそうだな」
「決まりね。では早速、勝負を始めましょうか」
「勝負って何で勝負するんだ?」
「……じゃんけんとか?」
「……まあ、いいだろう」
「それじゃあ……じゃんけん!」
「ポン!」
「……私の勝ちね」
「くっ! 私の不甲斐なさでクワカブトが昆虫界最弱に!」
「運も実力の内ってことね……ん?」
ふと、プラはクワカブトのいた木を見上げた。
するとそこでは、仲よく樹液をすするクワカブト、カブトムシ、クワガタの姿があった。
「……どうやら無粋が過ぎたようね。今の代理戦はなかったことにしましょう」
プラが微笑みながら言った。
「……だな」
チナも笑顔でそう言った。
二人は、クワカブト達に別れを告げ、再び歩き始めた。