いかにもな剣に出会って
「……なあプラ」
「……何よ?」
「剣っていうものは、地面から採れる者なのか?」
「そんな訳……ないはずだけど」
そんな不可解な会話をする二人の目の前には、盛り上がった地面に突き刺さった一本の剣があった。
「百聞は一見にしかずとはこのことだな。今この瞬間、世界の常識がまたひとつひっくり返されたわけだ」
「何を馬鹿げたことを。ちとびっくりしたけど、こんなの剣が地面に刺さっているだけじゃないのよ」
「……相も変わらず夢のない奴だ」
「夢は寝てる時だけで十分よ。さて、こんなしょーもない夢はとっととお開きにしましょう」
そう言うとプラは剣の柄に手をかけた。
「あいや、待ちなされ」
その手をチナが止めた。
「何よ。夢の二次会はお断りよ」
プラが言った。
「別にまだ夢うつつをぬかしたい訳ではないよ。ただ、いつかこんな話を耳にしたことがあってな」
「話? あんたの妄想でなくて?」
「お前、いつから私を妄想家と思っていた?」
「出会ったときから」
「第一印象でそれか、自分を客観視し直す必要があるな」
「そんな私用は後回しにしてもらえる。で、その話やら妄想やらを聞かせてもらおうじゃないの」
「……この際どちでもいいか。その話と言うのは、伝説の剣のことさ」
「伝説? なんだか壮大そう。長話は勘弁よ」
「……」
「……長話する気だったのね」
「ぐぅ! ……仕方ない簡潔に話そう」
「頼むわよ」
「その伝説の剣は世界のどこかの地面に突き刺さっていて、選ばれし者にしかそれを引き抜くことは出来ないとされているんだ」
「……この剣がそれだと?」
「ああ」
「即答。まあいいわ、こいつがその伝説の剣ならここに置いておくだけよ」
「ん? まるで、自分が選ばれし者ではないかのような言い草だな」
「まるでもなにもそうに決まっているでしょう。逆にあんたは私が選ばれし者だと思っているの」
「ああ」
「即答。喜んでいいのかどうなのか微妙な感じね」
「選ばれし者が何なのかは分からないが、何かに選ばれたんだ。くじ引きの当たりと同じ、喜ぶべきだろう」
「何かに選ばれているという時点で、何かの支配を受けているっていうことでしょう。そんなの微塵もうれしくないわ」
「支配? んー小難しい話は遠慮したいな」
「……さっき長話をしようとした奴の台詞とは思えないわね」
「と、とにかく。アタシが言いたいのは、この剣を抜くにはそれなりの緊張感を持った上でだな……」
そんなチナの言葉の途中で、突如、辺りに強風が吹いた。
「うおっ!!」
風でバランスを崩したチナはその場に転んだ。すぐそばの地面に刺さった剣を巻き込みながら。
「……」
「いてて、何だ今の風は。ん? どうかしたの……」
チナが後ろを振り返ると、そこには地面をえぐって地中から顔を出した剣の姿があった。
「あれ、抜けてる?」
チナが言った。
「……どうやら私以前にその剣が選ばれし物じゃなかったみたいね」
プラが言った。
二人は至極無駄な時間を過ごした。