矛盾に出会って
「うう、重い……」
山道を歩くチナが呟いた。
「何がよ? 心?」
隣を歩くプラが尋ねた。
「違う違う、さっきの町の出店で買ったこのハンマーのことだよ……まあ、心の方も若干は……」
チナが背中のハンマーに目をやりながら言った。
「いやいや、心の方は否定して頂戴よ。不安になるじゃないの」
プラが冷や汗を浮かべながら言った。
「ははは、冗談だ。ハンマーが重いのは冗談じゃないがな」
「冗談じゃないのはこっちの台詞よ。また訳の分からんものを無断で買ってからに」
「そういうな、今回のは実用性があるぞ」
「……今までのが実用性なかったことは認めちゃうのね。というか今回も実用性なさそうなんですけど」
「そんなことはないさ。なんせ、このハンマーは「何でも壊せるハンマー」だからな」
「……いかにも胡散臭そうな謳い文句ね。で、そいつをいったい何に使うつもり?」
「愚問だな。いいかアタシ達の旅は常に道なき道をゆく、困難極まりないものだ」
「……そうかしら、割と整えられた道を歩いていると思うけど?」
「……」
「……」
「……歩き続けるには、自らの手で道を切り開く必要がある」
「あっ、無視したわね」
「うっ、と、とにかくアタシが言いたいのは、進路に立ちふさがる障害物をこいつで排除できるってことだ!」
「清々しいほどの力技ね。といっても、そんな障害物になんて滅多に遭遇しないと思うけど」
「うう、それはそうだな……どこかに都合のいい障害物あったりしないかな?」
「いやいや、そんな都合よく障害物なんて……」
プラがそう言いかけた次の瞬間、道を曲がった先にその先の道を塞ぐほどの大きな岩が現れた。
「……わお、都合がいいわね」
プラが言った。
「……ああ、都合がいいな」
チナが言った。
「よかったじゃない、チナ、早速そのハンマーの出番よ。何でも壊せるっていうそいつなら、こんな大岩も一撃のはずよね?」
「当たり前だろ。この程度の石ころ、どうってことないよ」
そう言うとチナはハンマーを構えると、それを目の前の岩に向けて振り下ろした。
「せいやぁ!」
「あ、ちょっと待って」
突然のプラの言葉にチナはハンマーを振り下ろす腕を止めた。
「な、何だよ。やる気満々だったのにぃ」
チナが言った。
「ここ、何か書かれているわよ」
そう言うとプラは岩の中心を指差した。
「ん? どれどれ……この岩は絶対に壊れない岩です……だって」
チナが書かれている文字を読み上げた。
「……あんたのそのハンマー、何て言うハンマーだったけ?」
「ん? 何でも壊せるハンマーだけど……ってあれ?」
「困ったわ、これはいわゆる、矛盾って奴ね。この岩とそのハンマー、どっちかが嘘のパチもんってことになるわね」
「何だって! ど、どうすればいいんだ?」
「どうって、そのハンマーで岩を叩いて見ればいいのよ、岩が壊れたら岩の方が、岩が壊れなかったらハンマーの方がパチもんってことになるだけよ」
「簡単に言ってくれるな。このハンマー、結構高かったんだぜ。もしパチもんなんかだったら、立ち直れないよ」
「だったらせめて岩の方が壊れるように祈ることね。まあ、ぶっちゃけ、私はどっちがパチもんでもいいけど」
「うう、他人事だと思ってからに……分かったよ、行くぞ!」
そう言うとチナは岩に向かってハンマーを打ち付けた。すると、次の瞬間チナの握る持ち手の木の部分から、金属製の頭部だけがすっぽぬけ、空中で回転した後に目の前の岩を木っ端微塵に砕いた。
「……」
「……」
「……よかったわね、チナ。岩の方が壊れたから、そのハンマーは本物よ」
「よくなぁい! 明らかに不良品のパチもんじゃないか!」
チナはその場で地団駄を踏んだ。