ポエムを綴って
「うーむ……」
林道を歩くチナが唸った。
「どうしたの? 天然記念物並みに珍しく難しい顔しちゃって」
プラが尋ねた。
「常時、簡単な顔をしているかのような言い方は止めてくれ。アタシだって色々と考えて生きている生物のひとつだぞ」
「あっそう。それでその生物は今、何を考えているというのかしら?」
「うむ、よい質問だ。何を隠そうアタシは今、趣味のポエムを書いているのだ」
「……」
「……何だその臭い物でも見るかのような顔は」
「……さて、どこから手をつけようかしら……そうねぇ、そもそもあなたに趣味なんてあった? 食って寝るだけの毎日じやないの?」
「……ストレートに失礼な奴だな。アタシにだって趣味のひとつやふたつはあるさ……始めたのは今日からだけどな」
「即席じゃないのよ。日が浅すぎるわ、それじゃあまだ趣味とは言い張れないわよ」
「いいじゃないか。趣味に時間は関係ない。自らが楽しめている時点でそれは趣味になりうるのさ」
「にしても浅すぎるでしょうよ。趣味を名乗るのなら、せめて作品のひとつでも披露してみせてからにして頂戴」
「まったく、欲しがりさんだな。じゃあ……こんなんでどうだ?」
そう言うとチナはプラに何かを記載した紙を差し出した。
「超即興ね。さっきまで悩んでたのはどこいったのよ……どれどれ……」
プラが受け取った紙にはこう書かれていた。
"ポエムって 何書けば いいんだろう? "
「……何これ?」
プラが尋ねた。
「ポエム」
チナが答えた。
「どこがよ! ただ、今のあんたの気持ちを書いただけじゃないのよ!」
「そうだよ。今の自分の気持ちを文章にして見たんだよ。この読者に問いかける感じ、中々イカすだろ?」
「知らんわ! 自分で考えろ! ……私もポエムの定義はいまいち分からないけど、これがポエムじゃないことは確かよ」
「ポエムに定義なんてないんだよ。自分がポエムと思ったらそれがポエムになりうるのさ」
「今日のあんたそればっかりね。何? 気に入ったのその構文?」
「ああ、プラも使う?」
「絶対使うもんですか!」
「なんだ、つまらん……ん?」
二人は足を止めた。
それもそのはず、二人の目の前に満開の桜並木が現れたからだ。
「おお、ここが地図にあった桜の名所か、綺麗だなぁ」
チナが言った。
「ええ、ホントに。風流ね」
プラが言った。
「……ちょっと待て」
「何よ?」
「聞き逃す所だったが、風流ってなんだ?」
「さあ? 特に定義なんてないわよ。自分が風流と思ったら、それが風流になりうるのよ」
「……」
「……」
「……やっぱり気に入ってんじゃん、その構文」
「……う、うるさい!」
プラの頬も桜色に染まった。